神武天皇から数えて十二代目、後に景行天皇と呼ばれる
熊襲の部族には
「熊襲が従わぬことを心配なさらないで下さい。兵を一人二人貸してくだされば、わたくしに良い策がございます」
市乾鹿文は兵を借りて家に帰り、父に強い酒を飲ませて酔わせ、更に父の弓の弦を切って壊しました。こうして、
さて、大帯日子淤斯呂和気天皇には複数の妃との間に八十人もの子供がいましたが、中に
ある時、天皇は美濃(岐阜県南部)に美人姉妹がいると聞きつけ、早速自分の妻に加えようと、息子の大碓命を使者として出しました。ところが、大碓命は自分がこの姉妹を妻にしてしまい、父には偽者を送り届けたのです。天皇はそれに気付きましたが、息子には何も言いませんでした。
こんなことがあった後、天皇は小碓命に言いました。
「お前の兄は、どういうわけで朝夕の家族の食事にも出てこないのだ。お前、
けれど、それから五日経っても大碓命は食事に出てきませんでした。天皇が小碓命に尋ねて
「どうしてお前の兄は、久しく出てこないのだ。もしや、まだ注意していないのではないか」と言いますと、答えて「既にかわいがってやりました」と言います。
「どんな風にやったのだ」
「明け方、兄上がトイレに入った時、出て来るのを待って捕まえてつかみ潰して、その手足を引き千切って、敷物で包んで投げ捨てました」
”かわいがってやる”意味が違います。つーか、かわいがり過ぎでしょう、それは。
これを聞いて、天皇は息子の激しく荒々しい気性を恐ろしく思いました。そりゃそうでしょう。なんとか小碓命を遠ざけようと思い、こう命じました。
「西方に、
この時、小碓命はまだ十六歳で、前髪を額にラッパのように広げた結い方の、ほんの少年でした。叔母の
熊襲の土地に着いた小碓命ら一行は、しばらくの間、その辺りの人々の暮らしぶりや地形などを見て廻りました。
熊襲で
宴の日になると、命は結っていた髪を垂らし叔母の服を着て少女の姿となり、宴の様子をうかがって、女たちの中に混じって中に入りました。
夜が更けた頃でした。そろそろ人もまばらになり、
「待て、刀を動かすな。言いたいことがある」
瀕死の
「あなた様は何者か」
「私は、
「まことにその通りだろう。西方に我ら二人をおいて他に猛々しく強い者はなかった。なのに、大和の国に我ら二人に
ここをもって、私はあなた様に
こう語り終えると、熟れたメロンを断ち割るようにた易く、命は宝刀を振り下ろして
こうして、小碓命は
熊襲よりの帰途、命は出遭った山の神・河の神・海峡の神――各地の大和に従わぬ者・通行を妨げる賊たちを全て脅して従わせて、道を開いていきました。
出雲の国(島根県)に入ると、命は
ここに至って、命は
やつめさす
((多くの芽が萌え出でる出雲) イヅモタケルの腰に佩いた刀
飾りの葛は巻いていても 刀身はないので、あぁ)
命はこう歌いました。自分で騙して殺したくせに、タチが悪いです。
このようにして従わぬ・目障りな部族を力づくですっかり平らげて大和に帰ると、天皇に報告しました。すると、天皇はまたも
「東方十二国の荒ぶる神・従わぬ者どもと従わせてまいれ」
と命じ、討伐を命じた印としてヒイラギで作った長い矛を与えたのです。
「東の蛮族どもは狂暴で陵辱も恥じず、村に長もなく境界を侵し争い、山野の往来を防いで人々を苦しめている。その蛮族の中でも蝦夷は特に手強い。男女親子の区別もなく、兄弟でも疑い合う。冬は穴に寝て夏は木に棲む。毛皮を着て血を飲み、山に登るには飛ぶ鳥のようで、草原を走る様は獣のようだという。恩は忘れるが恨みは決して忘れず、束ねた髪の中に矢を、衣の中に刀を隠しているという。仲間を集めて辺境を侵し、収穫を狙って作物を掠奪する。攻めれば草に隠れ、追えば山に入る。そうして昔から一度も皇命に従ったことがない。
今お前を見れば、背は高く、顔は精悍で力も強い。雷のように猛々しく、向かうところ敵無しだ。
深慮遠謀をもって悪をこらしめ、徳をもって懐かせ、兵を使わず自ずから従うようにさせよ。言葉を尽くして荒ぶる神を鎮め、あるいは武をもって蛮族を打ち払え」
命は出発する時、伊勢神宮に寄って神を拝んで、叔母の倭比売命に言いました。
「天皇は、もはや私に死ねと思ってらっしゃるのか。どうして西方の悪いやつらを討ちに遣わして帰ってからまだ幾らも経っていないのに、軍勢も下さらないで、今、更に東の十二国の悪い奴らをやっつけに遣るのだ。これから思うに、やはり私に 「もう死ね」と思し召しておられるのだ」
命が悲しみ泣きながら出て行こうとすると、倭比売命は甥を呼びとめて、神宮に祀られてあった神剣を授けてくれました。この神剣は
こうして出発し、尾張国(愛知県西部)に着きました。川で、布を水に晒している少女がいます。彼女は
やがて相模国に入った時でした。そこの
「この野の中に大沼があります。その沼の中に住む神は、大変
それで、命がその神を見ようと野に入った時でした。
国造が野に火を放ちました。騙されたと気付いた時には辺りはごおごおと燃える火の海です。進退極まった命は、叔母・倭比売命から渡されていた袋のことを思い出しました。
――もしピンチになったら、この袋の口を開きなさい。
袋を開けると、中には火打石が入っていました。火攻めにあっているのに火打石?
そのとき、命が佩いていた神剣・天叢雲剣がひとりでに鞘から抜け出し、辺りの草を薙ぎ払いました。命は薙ぎ払われた草に火打石で火をつけます。燃え進んでくる火はそこで食い止められ、火勢も弱くなりました。”向かい火”といって、燃え進んでくる野火に火で対抗するのです。
命は燃える野から生還すると、騙した国造たちを斬り滅ぼし、火を放って焼きました。
この時に草を薙いだので、以降、天叢雲剣は
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ヤマトタケルは最も有名な日本の英雄かもしれませんね。 姫様もご存知でしたか? |
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うん。女装してクマソタケルを倒す話なんか聞いた事ある。 でも、すごーく卑怯で残虐なヒトだったんだね。騙まし討ちしてばっかだし、ご飯に出てこないからって、お兄さんの手足をむしって殺すかなぁ? |
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まぁ、まぁ。騙まし討ちは戦術のうちですし。 それに、家族で食事を共にするのは、今よりももう少し呪術的で重要な意味があったんですよ。「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、同じ火で煮炊きした料理を食べることで同族として認め合っていたんです。この慣習は日本に限らずあったようです。ですから、それを破った大碓命は一族からの離反、謀反を企んだととられても仕方がありませんね。 |
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そんな大げさな……。家族でしょ。 |
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そうですね。だから天皇も直接怒らずに、小碓命に「ねぐ教え諭す」ように命じたのでしょうが、命は意味を取り違えたみたいでしたね。 |
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そんなことで家庭内殺人事件が……! |
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いえ、死んだとは限らないですよ。大怪我を負わせただけかも。 「手足を引き千切って敷物に包んで……」のくだりは『古事記』にあるんですが、『日本書紀』の方にはありません。勿論、そちらではちゃんと生きていて、小碓命が熊襲討伐から帰った時に登場してきます。天皇が東国征伐を今度は大碓命に命じるのですが、怖がって逃げて草の中に隠れたので、天皇は呆れ怒って彼を美濃に追放し、改めて小碓命に東国征伐を命じたことになっています。 |
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情けないなぁ……。双子なのに、小碓命とは全然違うね。 |
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小碓命は”神の子”とさえ言われていますからね。 |
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うーん……。あれ? なーんか思い出すなぁ……。 |
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何ですか? |
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そうだ! ギリシア神話に出て来る英雄のヘラクレス! なんだか、似てるよね。 双子の兄弟として生まれて、双子の一方は臆病でものかげに隠れるような性格で、一方は勇猛で怪力で。身内の王に疎まれて無理難題を命じられて何度も旅に出かけていって、帰って来るとまた次を命じられるの。 でも、ヤマトタケルは女装の似合う美少年なんだよね。筋肉ムキムキのヘラクレスとはいまいちイメージ違うかな。 |
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そんなことありませんよ。ヤマトタケルは成長した後には背が高く精悍な顔立ちの逞しい男性になったといわれていますし。それに、ヘラクレスも女装しています。 |
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へ、そうなの? |
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欺くための変装ではなくて、ホントの女装ですけどね、こっちは。 |
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