青い雄牛メキシコ(スペイン系)

 継母にいつも苛められて、牛の番をさせられている女の子がいた。継母は食事をあまり与えてくれないので、ひもじくて泣いていると、飼っていた青い雄牛が口をきき、自分の耳の中に手を入れるようにと促す。雄牛の耳の中には魔法のテーブルクロスが入っていて、広げると何でも食べたいご馳走が並ぶのだった。

 こうして痩せて泣いていた女の子は健康で朗らかになったが、継母にはそれは耐え難い事だった。継母は雄牛の秘密をかぎ当てると、これを殺して食べてしまおうともくろんだ。雄牛は身の危険を感じ、女の子に一緒に逃げようと誘った。もちろん、女の子は雄牛が殺されるのなんてイヤだったし、自分自身も危険を感じていたから、雄牛と一緒に家を出て逃げていった。

 一ヶ月経って、ふたりは金の川に辿りついた。川を渡ろうとすると、白い牛が現れて戦いを挑んだ。青い雄牛は戦い、倒すと、白い牛は人間になった。次に銀の川に着いて渡ろうとすると、黒い牛が出てきて戦いを挑んだ。倒すと、これも人間に変わった。最後にふたりは森に着いた。すると青い雄牛は言った。

「お願いだ。どうか僕の首を切り落として、殺してくれないか」

 女の子はいやがったけれど、雄牛はたっての望みだといって聞かない。それで、女の子がその望む通りに雄牛を殺すと、雄牛は立派な人間の王子様になった。

 王子様は、自分たちは呪いをかけられて牛に変えられていたのだと言った。先に人間に変わった二頭の牛は、彼の父と兄だという。

「僕は城に戻らなくちゃならない」

 王子様はそう告げて、流れた青い牛の血を木の幹に塗りつけた。

「この血にはまだ魔法の力がある。願えば、君の望みを何でもかなえてくれるだろう」

 そしてお城に帰っていった。

 

 それから、女の子がどうしたかって?

 女の子は自分の肌を黒く塗って黒人に変装すると、お城に出かけていって女中として雇われた。やがて日曜日になると、木の幹の血に願って上等の服を出して、とびきり綺麗になってミサに出かけていった。こんなことが二度続いた。教会で彼女を見かけた男たちは誰もが彼女に夢中になって、兄王子や父王さえ彼女に求婚した。けれど彼女が選んだのは、もちろん あの青い雄牛の王子だったのだ。

 ふたりは結婚して、もうどこをもさすらうこともなく、幸せに暮らした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.



木のつづれのカーリノルウェー

 昔、王様とお妃様がいて、たいそう仲睦まじく暮らしていましたが、お妃様は美しい一人娘を残して死に、王様は新しいお妃を迎えました。この人には醜い連れ子があり、母子は美しい姫に嫉妬して、ついには憎むようになったのです。

 それでも王様がいる間はどうすることも出来ませんでしたが、戦争が始まって王様が出征してしまうと、散々に苛め始め、ついには家畜番にしてしまいました。姫はろくな食事ももらえずに家畜を追って野山をさすらい、ひもじさとみじめさで泣きました。すると、家畜の中にいた一頭の青いきれいな牡牛が口をきいて、姫を慰めはじめたのです。

「泣かないで、姫君。お腹が空いたのなら、僕の左の耳に手を入れてごらんなさい」

 姫が手を入れてみると、一枚のテーブルクロスが出てきました。広げてみると、なんてことでしょう。ご馳走も、お菓子も、蜜酒も、なんでも欲しいものが出てくるのです。

 それから、姫はお腹を空かせることはなくなりました。辛い家畜番も、むしろ楽しい時間になったのです。なにしろ、友達の青い牡牛と一緒なのですから。

 継母は、姫が元気になったのを見て怪しみました。それで侍女にスパイをさせて、事の次第を知ったのです。

 おりしも、戦争に行っていた父王が無事に帰還しました。お妃は仮病を使い、医者を買収して、青い牡牛の肉を食べなければ治らないと言いました。姫も王様も何とかして牛を助けたいと思うのですが、お妃は聞き分けません。いよいよ牡牛が殺されることになった前の晩、牡牛は姫に言いました。

「まず僕を殺して、次に君を殺そうというんだ。いっそ今夜のうちに一緒に逃げよう」

 姫は父王と別れるのを悲しがりましたが、それでも牡牛の背に乗って一緒に逃げていきました。

 

 牡牛と姫が遠く遠くさまよっていくと、やがて木も花も葉もすべて銅で出来た、あかがね色に輝く大きな森に行き当たりました。キラキラと日にきらめく様は夢のように美しく、葉が触れ合ってチリチリと鈴のような音をたてています。

「いいかい、この森に入ったら一枚の葉も痛めないようにするんだ。でないと僕達の命に関わるからね」

 牡牛はそういましめました。

 けれど、茂った森の木々を押し分けて進むうち、知らない間に、姫の手の中に銅の葉が一枚 残ったのです。

「なんてことをしてくれたんだ! 僕は生きるか死ぬかの戦いをしなくちゃならない。でも、その葉は大切に取っておくんだよ」

 そして森を出ようとすると、恐ろしいうなり声と共に、頭が三つあるトロルが走り出てきたのです。

「俺様の森を痛めた奴は誰だ! バラバラに引き千切ってやる」

 悲鳴を上げて立ちすくんだ姫を背にかばって、牡牛がそれと対峙しました。

 牡牛とトロルは激しく戦いました。そしてついに地響きをたててトロルが地に倒れましたが、牡牛も血まみれで、立つことも出来ませんでした。

「ああ、どうしたらいいの」

「トロルの腰に薬がある……。それを塗ってくれないか」

 死んだトロルの腰帯には薬壷が下がっていて、姫が中の軟膏を塗ると牡牛の傷はみんな塞がり、元気を取り戻して、二人は再び旅を続けるのでした。

 それから幾日も幾日も旅をして、今度は全てが銀で出来た森に行き当たりました。前にも勝る美しさです。姫は、勿論 葉の一枚も傷付けないよう注意しましたが、やはり一枚ちぎってしまったのです。

 森を出ようとすると、頭の六つあるトロルが走り出て来て、より熾烈な戦いになりました。今度も牡牛は勝利し、姫はトロルの薬を塗りましたが、しかし完全に回復して再び旅を始める前に、一週間は休まなければなりませんでした。

 そしてそれは、次に行き当たった全てが金で出来た森でも同じ事だったのです。この恐ろしいまでに美しい森でも、どんなに注意しても姫は葉の一枚を傷つけずにはおれず、森を出ようとする彼女達の前には頭の九つあるトロルが現れました。

 今までで最も激しい戦いになりました。それでも牡牛はトロルを倒しましたが、トロルの薬を使ってなお、歩けるようになるまでに三週間はかかったのです。

 

 それから更に幾つもの山や森を越えると、切り立った断崖の側に城がありました。やっと目的地に着いたとでもいうように牡牛が言いました。

「お城の下の豚小屋に行ってごらん。そこに汚い木のつづれがあるから、それを着てお城に行って召し使いにしてもらうんだ。――その前に僕の首を切り落として、皮を剥いであの断崖の下に置き、銅と銀と金の葉をその中に入れること。何か用事があったら断崖の側にある杖で岩壁を叩くんだよ」

 姫は嫌がったけれど、牡牛の頼みが断わりがたいのを悟って、泣く泣くその首を落とし、三枚の金属の葉を入れた皮を断崖の下に置きました。それから豚小屋に行くと木の皮をつづって作ったような汚い服があったので、それを着てお城に行き、”木のつづれのカーリ”と名乗って台所の下働きに雇ってもらいました。彼女はまめまめしく働きましたし、また仕事も速いのでした。

 

 さて、王様たちは日曜日ごとに家族で教会へ出かけるのでしたが、カーリは王子様の朝の洗顔用の水を運ばせて欲しいと頼みました。

「そんな汚い姿をしているくせに、王子様の前へなんか出られるもんか」

 他の召し使い達は呆れましたが、あんまり強く頼むので根負けし、ついにカーリは木の皮の服をガラガラいわせながら王子様の部屋へ登っていきました。

 王子様はそれは驚きましたし、怒りました。

「お前のような者が持ってきた水で顔が洗えるか!」

 そして水をカーリの頭から浴びせ掛けました。

 それでもカーリは気を落とさなかったように見えました。彼女は「私も教会へ行かせてください」と職場の人に言って休みをもらうと、岩壁へ行って杖で叩きました。すると一人の男の人が飛び出してきて、あの牡牛のように優しい声でカーリに尋ねました。

「どうしたの、姫君。僕に何をして欲しいの?」

「教会へ行くための晴れ着が欲しいの」

 男の人は、あかがね色にきらめく服とあかがねの箱馬車を出してくれました。

 カーリが教会に行くと、みんな見とれてしまってどこの姫君だろうと囁き会い、ことに王子様は目が離せなくなりました。カーリが帰ろうとすると王子様は走って行ってドアを開けてやり、握手を求めて「あなたはどこの方ですか」と尋ねましたが、カーリはこう答えました。

「私は、洗顔の国から参りましたのよ」

 そして王子様がうろたえている間に、こう唄って姿を消しました。

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 王子様は「洗顔の国」を探しましたが、勿論そんな国はどこにもないのです。

 次の日曜日には、カーリは王子様のところへお手ふきを持っていきましたが、王子様はやっぱり、「汚いお前の持ってきた手ふきが使えるか!」と叩き付けました。

 それからカーリは岩壁を叩いて銀色に輝く服と銀の馬具を着けた馬を出してもらい、教会に行くと、王子様は先週よりもっとのぼせ上がって、帰ろうとするカーリの馬を押さえつけて「あなたはどこの人ですか」と尋ねました。

「私は、お手ふきの国から参りましたのよ」

「えっ? なんですって?」

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 唄い終わるとカーリの姿は霧に包まれ、たちまちのうちにその場から消えてしまうのでした。

 三度目の日曜日には、カーリは王子様に櫛を持っていきましたが、相変らず、王子様は「汚い」と怒って、その櫛を投げつけるのです。カーリは岩壁に行って金にずっしりと宝石を縫い付けた服と馬を出してもらい、教会に行きました。もう誰も牧師様の説教なんて聞いていません。みんなうっとりとしてカーリを見ています。

 いつものように素早くカーリは帰ろうとしましたが、王子様があらかじめ廊下にタールを流してあったので、金色の靴が片方くっついて脱げてしまいました。王子様はその靴を差し出しながら例の質問をしました。

「あなたは一体どこの人なのです!」

「――私は、櫛の国から参りましたのよ」

 そしてカーリは唄いました。

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 美しい姫君の姿は消え、王子は「櫛の国」を探し回りましたが、何の手がかりも見つけられないのでした。

 

 ほどなく、国中におふれが出されました。王子様が持つ金色の靴をぴたりと履ける娘を王妃に迎えるというのです。

 沢山の娘が名乗り出ましたが、靴は小さく、誰も履ける者がありません。そこへ、例の継母が娘を連れてやって来ました。――なんと、見事に履いたではありませんか。結婚の話はあっという間にまとまり、王子様と娘は着飾って教会へ向かいました。――木の梢の鳥が歌っています。

かかとを切って

つまさき切って

木のつづれのカーリの靴は血だらけよ!

 王子様は、ようやくこれがニセモノの花嫁だと気づきました。そして、やっとカーリに靴を履かせてみようということになったのです。

 靴は、カーリの足にぴたりと合いました。おまけに、もう片方の金の靴もちゃんと履いています。更に、汚い木のつづれをさっと脱ぎ捨てると、下からあのまばゆい金の服が現れたので、もう間違いありませんでした。

 話を聞くと、彼女も王の娘だといいます。王子様はそれはもう喜んで、彼女と結婚式を挙げたのでした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社

※王子の性格が最低すぎる。こんな人を表面でしか見ない上に頭も察しも悪すぎるピーマン男(三回も皮肉られてるんだからいいかげん気付け!)と結婚したところで幸せになれるのかと思うが、財産は有りそうだし、案外上手く操縦していくのかもしれない。
 恐らく、話者が色んなシンデレラ系の話をミックスして作り上げたのではないかと思われるが、もう少し王子の性格を魅力的にして欲しかったなぁ…。おかげで大変読後感が悪い。




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