サレルノの殿様・テオバルドの妃が、もし後添いを探すなら、今私のはめている指輪がピッタリ合う人でなくては貰わないでください、と遺言して死んだ。やがてテオバルドは後添いを探すが、指輪がピッタリと合う娘は一人もいない。ところが、テオバルドの一人娘のドラリーチェがたまたま指輪をはめてみたところ、ピッタリ合った。テオバルドは実娘を妻にすることに決めた。
ドラリーチェに相談された乳母は、亡くなった妃の部屋にある精巧なタンスの中に彼女を隠す事にし、中を空にして、一口飲めば当分は食事をしなくていいという飲物と共に、ドラリーチェを入れて閉ざした。このタンスを外から開けることが出来るのは乳母だけである。テオバルドは娘を失って腹立ち、妻や娘の思い出のあるタンスが嫌になって、市でジュノアの裕福な商人に売り払った。乳母は密かに喜んだ。
商人が船でイギリスに着いた時、丁度、少し前にこの国の王に選ばれたジュノアの人が、狩りで通りかかった。若い王は飲物を所望して商人の船に入り、タンスを気に入って高値で買った。そして自分の寝室にタンスを置いた。
王は独身で、毎日狩りに出かけた。ドラリーチェは様子を伺っているうち王に恋し、留守中にタンスから出て部屋を片付け、寝台の上に匂いのいいバラやすみれをまき散らすようになった。王は怪しみ、ある日出かけたふりをして様子を伺っていた。そしてタンスから娘の出てくるのを見、掃除を終えて戻ろうとするのを捕まえて、妻にした。
一方、テオバルド侯はタンスの中に娘がいたのではないかと気付き、商人に身をやつすとサレルノを出た。ジェノアの商人からイギリスの王に売ったことを突き止め、王都に来ると城壁の下に高価な宝石や金銀細工を並べた。中には金のつむと糸巻き竿があり、女官に話を聞いたお妃は商人を城内に呼び寄せた。ドラリーチェは父親のことをすっかり忘れていたが、テオバルドはすぐに分かった。そして金のつむと糸巻き竿の代価として、二人の王子と一晩一緒に寝ることを要求した。お妃は商人に阿片を混ぜた葡萄酒を飲ませて、息子達と一緒の寝台に寝かせた。しかし、テオバルドは葡萄酒を飲んだふりをしていただけだったのだ。王子達の部屋はお妃の部屋と続いていた。テオバルドはお妃の傍らに置いた短刀で王子達を刺し殺し、短刀を元に戻した。そして用意した縄梯子を伝い、更に床屋で髭を切ったり衣装を変えるなど変装してから町を出ていった。
二人の王子が殺された悲しみが国を覆った頃、有名な星占い師がやってきて、王に宮廷にいる全ての男女の短刀を調べるよう進言した。刃に血の染みのある者が暗殺者だと。果たして、妃の短刀に血の染みがあり、王は妃を裸で地中に埋め、首だけ出して上等な食事を与え、じわじわと虫に食い殺されるようにした。
星占い師はテオバルド侯であり、ほくそえんでサレルノに帰ると、乳母にこの話を得々と聞かせた。乳母はうれしそうなふりをして聞いていたが、やがてサレルノを去ると、イギリスに行って「玉座の名誉に関わる話をするから、二人だけにしてくれ」と嘆願した。そして真相を語った。王はそれを信じ、妃を許して看病させ、大軍を率いてサレルノを攻め落とした。
テオバルドは捕虜としてイギリスに送られ、罪を白状させられてから、四頭だての馬車で市中を引き回され、死体は犬に投げ与えられた。
王とドラリーチェは幸福に暮らし、何人もの子を残した。
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
※あんな恐ろしくて陰険な刑を与えておいて、濡れ衣だとわかったからといってあっさり夫婦仲が元に戻るものかなー。普通 亀裂が入りそうなものだが。
参考--> [箱の中の娘][りんご娘]
昔、伯爵の奥方がいました。ある日のこと、気分がすぐれないので湖に散歩に行くと、湖の中から声がして湖の精が現れ、お喋りを始めました。奥方と水の精はそれからもたびたび湖のほとりでお喋りをし、ごく打ち解けた付き合いをするようになり、ついには奥方が妊娠している子供が生まれたら、洗礼式の代母を水の精に任せることになったのです。
その日になり、かなり遅くなってから、水の精が大きな白いヴェールで顔を覆って現れました。ヴェールは半ば湿っていました。水の精は赤ん坊に洗礼を受けさせ、代母からのお祝いとして、小さな籠に入った三つの卵を枕元に置きました。そしてこの卵は大事に取っておくように、いつかはこの子の役に立つことがあるのだから、と言い添えました。
まもなく奥方は亡くなり、伯爵が次に結婚した女は前の奥方の子供を嫌がって殆ど構いませんでしたので、子供はもっぱら子守り娘に預けられ、娘は子供の好きなようにさせてくれたので、子供はよく一人で湖のほとりで遊んで、水の精に色々な話を聞きました。
こうして伯爵の幼い姫君はすくすくと成長し、そろそろ年頃になりました。ところが、ある夜のこと、伯爵の城が火事になって、伯爵はにわかに貧乏のどん底になってしまいました。
姫君は危険を逃れ、卵の籠を持って湖の代母さまの元へ走りました。そして今後のことを相談すると、水の精は娘がまだ卵を無くさずに持っているのを見て、こう言いました。
「あなたはまだまだ大変豊かな身の上なのですよ。なぜって、その卵で三つの願いが叶えられるのですからね。どんな無理難題であろうとあなたの思いのままです。ですが、いいですか。だからこそ、軽々しくつまらない願いをかけないようにしなさい。本当に必要な時のために、一つだけは残しておくようにしなさい」
そして、森の向こうの大公さまのところで下働きに使ってもらうのがいい、と勧めました。お姫様も納得して、早速出かけることにしました。
途中で、ケーテルという百姓の娘に出会いました。お姫さまは、自分の上等過ぎる服装では雇ってもらえぬだろうと考えて、ケーテルと着物を取り替えました。
普通の百姓娘の姿をしたお姫さまは、大公様の城で下働きを始めました。給料もタダ同然でいいし、どんな仕事でもすると熱心に頼み込んでのことでした。辛い仕事でお姫様の手は荒れ、服も汚れて、新しい服も持てないので、主人の部屋に入ることも許されませんでした。
こうして、お姫様が台所の下働きになって七年経ちました。
この頃、この城の若様が結婚を思い立ち、とびきり美しい花嫁を探し出すために盛大な舞踏会が開かれました。近隣の良い家柄の娘は残らず招待を受けました。
その晩、きらびやかに着飾った姫君たちが続々やってくるのを見ると、お姫様は羨ましさのあまり溜息を漏らしました。そして、あの卵のことを思い出したのです。お姫様は台所仕事を済ませてから自分の部屋に行き、汲んだ水で体を清めてから、立派なドレスとそれに相応しい品を一揃い、と願って卵を割りました。あっという間に望みの品が目の前に揃っていました。
お姫様が着飾って広間に入っていくと、お客はみな見知らぬ令嬢の美しさに目を見張りました。若様もお姫様をたいそう気に入ってしまい、殆ど一晩中側を離れませんでした。若様は、お姫様が帰ろうとすると、あなたのハンカチを下さいと言いました。お姫様が差し出すと、若様は自分のハンカチを渡しました。それから、お姫様はこっそり自分の部屋に戻り、再び下働きの粗末な服に戻りました。
翌日には、城中が若様の心を捉えた不思議な令嬢の噂でもちきりでした。お姫様はその噂を余さず聞きながらも何も言うことなく、そっと微笑んでいました。
四週間経つと、再び舞踏会が開かれました。今夜こそ嫁選びをするとの噂です。それを聞くとお姫様は二度目の願いをせずにいられませんでした。今度はダイヤをちりばめたドレスと揃いの品を出し、また一番後から広間に入っていきました。人々は以前に増して感嘆し、若様はもう片時もお姫様の側から離れませんでした。そして宴の終わりには、あなたを誰よりも愛していて、全世界を捧げても惜しくないと言い、あなたにその気があるならぜひとも妻になって欲しいと言い出しました。
「そんなことを仰って、もし私の素性を知ったらさぞ後悔なさることだろうと、それだけが気がかりです」
しかし、若様が強く願うので、ついにお姫様も頷いて、二人は指輪を交換し、四週間後にまた来て、本当に結婚すると約束しました。
翌日は、若様の愛を勝ち取った美しい花嫁の噂で持ちきりでした。お姫様はそうした話に耳を傾け、時には胸踊るのを抑え切れなくなりながらも、やはり花嫁が自分だということは黙っていました。
こうして、いよいよ婚礼の行われるべき日が訪れました。しかし、お姫様は望みを叶える卵が後一つしか残っていないことにふと気付いて、ぞっとしました。そういえば水の精は、一つだけはもしもの時のためにとっておきなさいとかたく戒めていました。
それで、お姫様はこの日、舞踏会へ行きませんでした。本当はとても行きたかったのですが。ところが若様の方は、花嫁がこなかったうえに居場所がわからないので、悲しみのあまり寝付いてしまいました。
仲の良い料理女からこの話を聞いたお姫様は申し訳なく思い、自分が最後の願いをケチったことを責めずにいられませんでした。そして若様を何とか助けられないかと、そればかり考えていました。
ある日、医者の指示で、若様のためのスープが作られることになりました。お姫様は料理女に無理に頼みこんで、スープを作らせてもらいました。そして、皿の底に婚約指輪を入れておきました。
スープは病人の口にとても合い、若様はみんな平らげましたが、皿の底に婚約指輪を見つけて喜びました。そして料理女を呼んで、このスープは誰が作ったのかと尋ねました。料理女は困惑しながらも、下働きの娘が作りました、と打ち明けました。すぐに、その下働きの娘が若様の前に呼ばれました。
「それではお前がスープを作ったのか。そんな汚いボロボロのなりをして。あの指輪はどこでどうして手に入れた?」
お姫様はおどおどして、さる高貴な方からいただきました、と小さな声で答えました。若様はひどく怒ってお姫様を叱り付けて下がらせましたが、部下に彼女を見張るように言いつけました。
お姫様はすごすごと自分の部屋に戻りましたが、体を清めると、あのダイヤをちりばめたドレスをまとい、最初の舞踏会の日に着たドレスともらったハンカチを持って、もう一度若様の部屋に行こうとしました。ところが、部屋の戸を開けると、若様に見張りを言いつけられた男たちが立っていました。男の一人は慌てて若様に知らせに行こうとして階段から落ちて足を折り、もう一人はダイヤがあまり輝くので、目がくらんで動けなくなってしまいました。
さて、お姫様が部屋に戻ると若様の病気はたちまち吹っ飛びましたが、お姫様は言いました。
「これがさっきこの部屋を追い出された、ボロボロの汚い娘。あなたのためにスープをこしらえて、いただいた指輪を中に入れた下働きの娘ですのよ。
私が以前申し上げたことは正しかったでしょう? 私の素性が知れたら、とても結婚していただけないでしょうって」
若様は下働きの娘とこの姫君が同一人物であったことを悟り、そうとは知らずひどいことを言ってしまったのをくれぐれも謝りました。そして、改めて「あなた以外の女と結婚する気はない」と誓い、その誓い通りに彼女を妻に迎えました。
ただ、若様の母親はどうしても賛成してくれず、息子が後ろ盾のない下働きの娘と結婚したことに、ひどくおかんむりでした。
さて、お姫様に最初の赤ん坊が生まれました。それは女の子でした。ところが姑はその子をこっそり連れ去って、湖へ放り込んでしまいました。二人目の女の子が生まれた時もそうしました。それでいて自分の息子には、「あんたの嫁さんは、自分の産んだ子を二人とも殺してしまったのだよ」と言いつけました。
若様はそれを聞いてたいそう腹を立てました。元はあれほど愛した妻だっただけに怒りも激しく、罰として部屋に閉じ込めたまま焼き殺してやる、と言い出しました。
お姫様は部屋に閉じ込められ、暖炉にものすごい火が焚かれました。あまりの熱さに気が遠くなりかけた時、哀れな姫君の頭に、ふと、最後の卵のことが浮かびました。お姫様はすぐに代母の水の精が来てくれるように願いました。
あっという間に水の精が現れました。水の精は部屋を冷やし、開け放って、お姫様を救い出しました。そして、湖に捨てられた子供たちは私が育てているから、書類を持たせて帰してあげよう。あなたが子供たちを連れて帰れば万事うまく行きますよ、と言いました。
お姫様が二人の娘を連れて城に戻ると、若様は喜びのあまり、娘たちを幾度となく抱きしめました。そのうえ、この子達を殺そうとしたのが思いあがった自分の母親だと知ると、涙ながらに妻に謝りました。
かくして、腹黒い姑は、息子が妻のために用意した刑罰を、自らが受けるはめになりました。代わって若いお姫様は夫と愛しい娘たちと共にいつまでも楽しく平和に暮らし、みんなから慕われました。とりわけ、昔仲間だった下働きの女たちや、あの年取った料理女は、この奥方を誰よりも慕いましたとさ。
参考文献
『世界むかし話(全十七巻)』 ほるぷ出版
※”シンデレラ”が水の精を後見に持っていることが興味深い。
また”三つのたまご”が【三つの愛のオレンジ】をどこか思わせる。
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