ハンチ物語インド カンナダ語族

 昔、兄妹の子供をもったやもめ女がいた。妹は金髪のそれは綺麗な娘だったが、成長した兄は欲情を抱いて、とうとう「妹と結婚したい」と母に迫った。母はとても驚いたが、つとめてそれを隠し、「結婚はすぐには出来ないよ。婚礼に必要だから、米と小麦粉とひら豆を買っておいで」と言って、近くの町へ買いにやらせた。その間に、金の器と引き換えに陶器の仮面を手に入れて、娘に被せ、食料を与えて家から逃がし、自分は毒を飲んで死んだ。兄は戻ってこの有様を見、発狂してしまった。

 

 娘は川沿いに逃げていって、ある親切な老婆の紹介で金持ちの家の女中になり、ハンチ(土、陶器)と名乗った。彼女の米料理はとても美味しかったので重宝された。

 ある日、果樹園でパーティーが開かれたが、ハンチは残って料理をしていた。誰もいなかったので仮面をとって水浴びをした。

 この家には若様がいたが、彼はこの水浴びを覗き見して、すっかり彼女に恋してしまった。彼は母に相談をし、家族の前にハンチを連れていくと仮面を取った。人々は驚き、ハンチの身の上を聞いた。そして彼女を嫁にした。

 

 さて、ハンチはめでたく若奥様になったわけだが、そんな彼女によこしまな思いを寄せる男がいた。彼はグルスワミといい、この家に出入りしている僧だった。彼は「子宝が授かるから」と言って、ハンチに魔法のかかったバナナとアーモンドとキンマの葉、クルミを食べさせようとした。これは媚薬で、食べればグルスワミのとりこになってしまうのだ。しかしハンチは何かに感づいて、抜け目なく食べ物を普通のものと入れ替えておいた。魔法のかかった食べ物は水牛が食べて、夜中に水牛がグルスワミの寝室に押しかけ、大変なことになった。グルスワミは懲りずに魔法のかかった升と樽、次はほうきを用意したが、その度に失敗した。

 流石に懲りて、グルスワミは新たな手でハンチを手に入れることにした。再び訪れた果樹園のパーティーの日、グルスワミは空っぽの屋敷に一人引き返して、ハンチの寝室に男物のターバンなどを置いて、ハンチが浮気したと騒ぎ立てた。家人はみな、僧であるグルスワミの言い分を信じ、ハンチは牢屋に入れられて打たれた。グルスワミは、この姦婦は箱に入れて川に沈めてしまいましょうと言い、ハンチを箱に入れさせて屋敷から運び去った。

 さて、遠くに行ってじっくりハンチを己がものにする前に、僧は箱を屋敷近くに住む、例の親切な老婆に預けていった。箱の中には狂犬が入っているから、どんなに暴れてもけして開けてはならないとかたく戒めて。しかし老婆は箱の中身がハンチであるのに気付いて助け出し、グルスワミの嘘に倣って、箱の中に狂犬を入れておいた。その後、グルスワミはいそいそと箱を運び出していき、開けたところ狂犬が飛び出てきて、かみ殺された。

 

 それから数年が過ぎ、老婆はお金持ちの家の人々を呼んで米料理をふるまった。ところが、この美味しい料理は、あの懐かしいハンチの味そのものではないか。驚き怪しむ人々の前に死んだはずのハンチが姿を現し、真相を語った。



参考文献
『シンデレラ 9世紀の中国から現代のディズニーまで』 アラン・ダンダス編、池上嘉彦ほか訳 紀伊國屋書店

※これは、不倫をでっち上げられる話。
 この後ハンチは夫と復縁したと思うだろうか? 個人的には復縁なんぞしない方がいいと思う。妻の言い分を全く聞かず、牢屋に閉じ込めて殴り、挙句 水に沈めて殺すことに同意した夫や婚家の人々……。所詮、彼らにとってハンチは美しくて料理上手というだけの、都合がいいだけの人間だったのだろう。だから信じることもなく簡単に殺すのだ。人権を持たない女の悲しさがよく現れている。
 数年後にかつての夫たちに真相を話したハンチはどんな心境だったのだろうか? こんな目に遭わされても、やはり夫に未練があったのだろうか? それとも、せめて自分の潔白を示したいと思ったのだろうか?
 ハンチの運命がそもそも狂ったのは、彼女の美しさに実の兄が狂ったせいだった。一家崩壊だ。その美しさ故に夫に見染められて結婚し、また横恋慕されて殺されかけた。彼女の母親が娘に醜い土の仮面を被せたのは、どんな心境からだったのだろうか。
 なお、類話によっては、横恋慕する僧はかつて主人公を手に入れようとした実兄が変装したもののようだ。

参考--> 「白檀の木」「鉢かづき姫




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