なくした金の靴アイルランド

 遠い昔のこと。マニ王は愛する妃と賢い娘ミャドヴェイをもっていた。不幸なことに妃が病死すると、王はベッドに横たわり、国政に構わなくなった。家臣たちは相談し、王の承諾を得ると、王の新たな妃を探して旅に出た。三人の家臣たちは海で迷い、見知らぬ土地に上陸した。美しい琴の寝に導かれてテントに行き、美しい女性を見つけた。彼女はこの国の王の妃だったが、海賊が王を殺し妻になれと迫るので、それから逃れてきたのだという。彼女こそマニ王の新たな妃に相応しいと思われ、三人の家臣は渋る彼女を説得して、彼女とその小さな娘を連れかえった。彼女を見ると王の悩みは消え去り、盛大な婚礼をした。

 王は徴税のために地方に出かけて行った。継母は自分の娘と共にやってきて、ミャドヴェイを散歩に誘った。最初はとても親切だったが、城から遠く離れると急に怖くなり、ミャドヴェイと自分の娘の服を取り替えさせ、魔法をかけて娘をミャドヴェイそっくりに変えた。そして本物は手足を縛ってそこに置き去りにして行った。城の人々はミャドヴェイの性格が突然変わったのに驚いたが、姿はミャドヴェイそのものだったので、誰も別人とは思わなかった。

 ミャドヴェイは夢を見た。死んだ母が現れて縛めを解いてくれ、何でも食べ物の入っている布をくれた。ただし、食べ物は全部食べてしまってはいけないし、人に見られてもいけない。継母とその娘に気をつけなさい、と言って母は消えた。目覚めると手足は自由になっており、ちゃんと布があった。

 そこへ、今はミャドヴェイに成りすましている娘が、母の言い付けでミャドヴェイが本当に死んでいるかを確認にやってきた。ミャドヴェイが無事なのを見ると、娘は「母のしたことは悪かった、これから王様が帰るまで私はあなたと共にいます」と言い、ミャドヴェイの側に付いて秘密を探ろうとした。ミャドヴェイは娘が眠ったときに布を取り出して食事を始めたが、眠ったふりをしていただけの娘は飛び起きると、布を奪って城に帰った。

 途方にくれ、ミャドヴェイはさまよった。疲れて眠ると、再び母が夢に現れて、「お前は軽率だったね」と言った。「こうなったらまっすぐに海辺へ行きなさい、すると小路の先の岬に小屋があります。鍵がかかっているけれど、鍵はドアに刺さっています。太陽に付いて三度家の廻りをめぐり、三度反対にめぐって、その度に鍵に触れると鍵が開くから、お前はそこで暮らすことです。何も心配いらないよ」、と。

 そして、こんな歌を唄って聞かせた。

そこでは郭公が呼び

そこにはニラが生え

そこでは牝羊が皮を脱ぐのだよ

 それからミャドヴェイは岬の小屋で暮らし、毎日楽しく過していた。

 ある日、気晴らしに丘に上ると、すぐ近くを一団の帆船が通った。彼女はひどく驚いて小屋にかけ戻ったが、金の靴の片方をなくしてしまった。

 その船団を率いていたのはある国の王子で、噂に高いミャドヴェイ姫に求婚に訪れたのだった。王子は船を降りて王宮に行く途中で金の靴を拾い、あまりに美しく華奢なその靴に心惹かれ、この靴の合う女性とでなければ結婚しないと思った。

 王子は王宮にやってきて「ミャドヴェイ姫をいただきに来ましたが、途中で拾ったこの靴が合う人でなければダメです」と言った。妃は靴を受け取って、これはミャドヴェイのものです、以前なくしたのですと言い、奥に入って娘に靴を履かせた。けれど、足は半分も入らなかった。妃は娘のつま先とかかとを削ぎ落として無理に履かせた。娘は「ひどい」と言ったが、王子と結婚するためにはこのくらい辛抱しなくては、となだめた。偽のミャドヴェイが着飾って現れると、王子の目にも確かに靴が合っているように見えたので、彼女に求婚し、一緒に国に連れて帰ろうとした。ところが、船がミャドヴェイの小屋の側を通りすぎた時、王子は高らかにさえずる鳥の声を聞いて不安になった。というのも、彼には鳥の言葉が解ったからだ。

舳先に座るのは かかとを削いだ娘

靴を赤い血で染めて。

花嫁に相応しい マニ王の娘ミャドヴェイはこの陸にいる

戻りなさい、王子様!

 王子は最初鳥の言うことが信じられなかったが、靴を見るとそのとおりだとわかったので、魔法の杖で偽のミャドヴェイの肩に触れた。すると娘は醜い女巨人になり、これまでのことを残らず白状せねばならなかった。王子は女巨人を殺して肉を塩漬けにしたが、十二樽分もあった。その樽は火薬を詰めた一艘の船の上に運ばれた。

 それから、王子はボートを下ろして岬に上がり、小屋を見つけた。小鳥の歌によって鍵の開け方を知り、中に入ると、素晴らしく美しい女がいた。娘はマニ王の娘ミャドヴェイと名乗り、継母の手を逃れてここにいると語った。王子がこれまでのことを語って靴を履かせると娘はやすやすと履いたが、見れば、片方は既に履いているではないか。王子はこれこそ自分の真の花嫁だと思い、彼女を船に連れていった。

 さて、それから王子はマニ王の王宮に戻って、ミャドヴェイの両親に一緒に結婚式に来て欲しい、と船旅に誘ったが、妃は渋ってなかなか乗りたがらなかった。説き伏せて乗せたが、途中で船酔いのために食欲がなくなった。王子は十二の樽に入れた塩漬け肉を勧めた。妃は毎日一樽ずつ肉を食べたが、食べるときには醜い女巨人の正体を現すのだった。十二日目、王子はマニ王にその様子を見せ、肉の樽を乗せた船の火薬に火をつけて、妃の女巨人を爆死させた。

 こうして王子とミャドヴェイは盛大な婚礼を挙げた。

 やがて王子は王位を継いで王となり、二、三年経つと美しい息子も生まれた。子供を産んだ後、妃のミャドヴェイは風呂に入った。そして石鹸を取りに侍女が場を離れた隙に、一人の見知らぬ女がやってきて、挨拶し、服を取り替えてくれと言った。ミャドヴェイが取り替えた途端、女は呪文を唱えてミャドヴェイそっくりに変わり、ミャドヴェイに向かっては「私の兄弟のところへ行け」と唱えた。すると本物のミャドヴェイは消えてしまい、妃は入れ替わった。誰もこの入れ換えには気付かなかった。ただ、妃が以前より優しくなくなったとは感じても。

 さて、王はミャドヴェイと出会ったあの小屋を気に入っていて、魔法で持ってきて妃の住居の側に移築していた。平和な時には郭公が呼び、ニラが芽をふき、牝羊が皮を脱ぐという歌が聞こえていたが、今はそれも一変していた。

もはや郭公は歌を唄わず

土からはニラが芽をふかず

牝羊は皮を脱がず

そして揺りかごの中の赤ん坊は 決して泣き止むことはないだろう

 こんな歌が聞こえ、国中の全てが狂っていくように見えた。

 そんなある日、王の羊を世話している牧夫が海辺を通ると、岩礁の下からガラスの箱が浮かび上がってきて、中には妃のミャドヴェイにそっくりの女が捕らえられていた。箱は鉄の鎖で縛られ、鎖は醜い巨人がしっかりと握っていて、また箱を海に沈めるのだった。

 驚いた牧夫はしばらく小川の側で考えこんでいた。すると子供が川に水汲みに来たので、金の指輪をやった。子供は喜んで岩の下に姿を消し、すぐに小人が出てきて、子供への贈り物の礼を言い、お返しに何をあげましょうかと言った。牧夫は答えた。「僕はあの岩礁の間に見えたものが何なのか知りたいだけだ」

「ガラスの箱の中にいるのはお妃のミャドヴェイだ。今 城にいるのは入れ替わった女巨人で、その女巨人の兄弟が、鎖を握っていた巨人なのだ。巨人はお妃が四度だけ陸に出るのを許しているが、その時に誰かがお妃を助けられたなら、彼女は救われる。しかし、彼女は既に三度陸に出ていて、明日が浮かび上がれる最後の時なのだ」

 牧夫は小人に援助を申し入れた。小人は牧夫に斧を与えて、明日 箱が浮かび上がったら、これで鎖を断ち切れと教えた。

 牧夫はその晩は岩の中で待ち、朝になると例の岩礁に出かけた。そして鎖を断ち切るのに成功したが、たちまち巨人が躍りかかって彼を殺そうとした。小人が手にした袋から何かを巨人に投げかけ、すると巨人は視力を失って、そのまま岩から滑り落ちて死んだ。

 牧夫と小人はミャドヴェイをそこに待たせて城に行き、偽の妃に魔法の杖で触れて正体を暴いた。醜い女巨人になった偽の妃は、かつてのミャドヴェイの継母は自分の姉だったので、復讐しようとしたのだ、と語った。王は怒って女巨人を打ち殺させた。

 牧夫は訊いた。もしお妃にかけられた魔法を解いて救った者がいたら、どんなお礼をしますか、と。王は大きな財産と貴族の称号と領地を与えようと答えた。牧夫はすぐに妃を連れてきた。王と妃の再会は、口では言えないほどの喜びだった。

 こうしてミャドヴェイがまた幸福になると、郭公は呼び、ニラは芽をふき、牝羊は皮を脱いで、揺りかごの中の赤ん坊は泣き止んだ。それからは、彼女は老年になるまで幸せに暮らした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※……なんでいつもいつも簡単に服を取り替えるんだよミャドヴェイ…。

参考--> 「フェアとブラウンとトレンブリング」【白雪姫



ペリア・ポカクインドネシア ジャワ島

 少女ペリア・ポカクはいつも七人のおばに小馬鹿にされ、着るものと言ったらボロでみすぼらしかった。

 その日もおば達は水浴びし美しく装って、色っぽく腰を振って道を歩き、領主の息子ダトゥ・テルナとその供のカロヤデの側を通りかかった。と、その時二人の会話が聞こえた。カロヤデはおば達の中の誰それがいいと言ったのに、ダトゥ・テルナは、その一番後ろのみすぼらしいペリアが一番奇麗になるだろうと言ったのだ。その時からおば達はムスッとして醜くなり、ペリアを苛めだした。無力なペリアの母はおろおろするばかりである。

 翌日、おば達はペリアを薪取りに誘いだした。ペリアの母は心配したが、ペリアは出かけていった。しかしおば達はペリアが枝を取ろうとすると邪魔し、取り上げる。ペリアは薪を探して一人で森の更に奥へ入り込んだ。途方に暮れていると、七人の妖精が出て来て、ペリアを天国へ連れて行き、天の織物の技術を教えてくれた。妖精は、ペリアが初めて織った二枚の織物を一見腐ったように見える竹筒に入れてお土産に持たせてくれ、その日の午後には森の同じ場所に帰してくれた。持ち返った織物を見た母は、これで夜の寒さも大丈夫だと言って喜んだ。

 翌日から、おば達はますますペリアを苛め、ペリアに藍の染料を塗りたくってみっともない姿にした。しかし、ダトゥ・テルナは「太陽は曇っている方が見易い」とますますペリアを誉め、ついにはカロヤデもそれを認めたのだった。

 ペリアが昨日の森へ行くと、妖精達が体を洗ってくれて、更に模様の織り方を教えてくれた。こうしてペリアはしょっちゅう森へ行くようになり、どんどん織物の技法を覚えた。数年経つとペリアの家は素晴らしい織物の入った竹筒が山となったが、彼女は決してうぬぼれず、相変らずもの静かで控えめだった。

 

 そんな頃、ダトゥ・テルナは満月が膝に落ちる不思議な夢を見た。不安になって意味を父の領主に尋ねたが、領主は笑って、太鼓を打って人々を集めて彼らに聞くがいいと言った。そうして人々が集められると、占い師はみんな「吉兆です」と言った。人々は喜び、みんなで漁や狩りに行った。ところが、他の人々は大漁で戻ったのに、ダトゥ・テルナとカロヤデだけが戻らなかった。彼の母は嘆き、父は心配して捜索させたが、息子の行方は分からなかった。

 ダトゥ・テルナとカロヤデは獲物のないまま意地になって山奥へ入り込み、迷って深い谷間に辿り着いていた。そこには高い木があり、”世界の始まり”と名付けた。カロヤデがその木に登って水を探したが、一番近い水場まで山五つもあった。彼らはそこを目指したが、四番目の山で、辺りにこだまする機織りの音を聞いた。人がいるのかと五番目の山の周りを探したが、音ばかりで何も見つからなかった。これは天国で機を織るペリアの立てる音だった。ペリアは二人に気付き、「見つかったら私の運命は駄目になってしまうわ」と、慌てて逃げ帰った。

 ダトゥ・テルナとカロヤデは小さな池を見つけて水を飲み、流れを溯って、七人の妖精の泉を発見した。そこには金の水汲み桶があり、二人は何故こんな山奥にこんなものが、と不思議がった。それから存分に水浴びしてスッキリした。さて、帰ろうとしたが、ナイフの柄が何かに引っかかる。よくよく見れば蜘蛛のそれのような細い糸が張り巡らされていた。見れば機(はた)があるが、高いところにあって登れない。テルナに支えてもらってカロヤデが竹を登り、やりかけの織物を取ってきた。見れば見るほど素晴らしい織物である。二人はそれを獲物に、無事に帰りついた。

 帰って来たダトゥ・テルナは、やがて国中におふれを出した。

「森の奥で見つけた織物を最後まで仕上げることのできた女と結婚する」

 多くの娘が挑戦したが、できなかった。ペリアの七人のおばもやってみたが、だめだった。殆ど国中の女が失敗したかと思われた時、ダトゥ・テルナは聞いた。「もう他に試していない女はいないのか」「私達の姪のペリア・ポカクが試しておりません」おば達は答えた。「でも、あの子にできるはずありません。あの子は織物なんて一度もしたことがありませんわ」

 ペリアに迎えが差し向けられたが、ペリアはおば達の言ったことを聞いて、挑戦するのを渋った。

「私、行きません。お屋敷に行けるような服がありませんから」

 それを聞くと、ダトゥ・テルナは美しい服を届させた。こんな調子で、上着、巻きスカート、ショール、ベルト、様々な装身具、髪用のココ椰子の油、櫛、乗っていくための馬、駕籠とお供、楽隊――ペリアの傲慢とも言える要求にダトゥ・テルナは全て応えた。

 ついに口実もなくなり、ペリアは着飾って領主館へ行った。ダトゥ・テルナが贈った服ではなく、現れた七人の妖精たちの用意し着付けしてくれた、輝くばかりの服だった。彼女は例の織物のところへ行くと、最初は織れないようなそぶりをし、ちょっとの隙に完璧に織り上げてしまった。

 ダトゥ・テルナは急いでペリアに負けないような立派な服に着替えてきて、領主は二人の結婚を宣言しようとした。しかし、ペリアは逃げ口上をした。だが妖精に説得され、結婚を承知した。

 ペリアは、家から腐った竹筒を持ってこさせ、山と積ませた。人々は不審に思ったが、割らせると、全ての筒から美しい天の織物が出て来た。

 こうして二人が結婚すると七人のおば達は恥ずかしさのあまりこそこそと姿を消し、七人の妖精はペリアの許しを得て天国に帰っていった。



参考文献
『世界の民話(全三十七巻)』 株式会社ぎょうせい

※七人のおばたちが、嫉妬にとらわれた途端に醜くなる、という描写が面白い。美しさは肉体の造作ばかりの問題ではない、ということだろう。
 この七人のおばたちと同じ人数の妖精たちがぺリアを助ける。妖精とおばたちは表裏一体の存在だと感じさせられる。

 それにしても、ぺリアは結婚したくなかったみたいなのに、幸せになれたんだろうか?



ズーニー族のシンデレラアメリカ

 いつも一人ぼっちで七面鳥の番をしている娘がいた。”聖なる鳥の踊り”の祭の日も、出かけることが出来ずに泣いていた。すると突然七面鳥が口をきいてこう言った。

「あなたは本当に私たちの母親のように優しい。お祭りに行って楽しんでらっしゃい。ただ、太陽が沈むまでには帰ってこなければなりませんよ」

 七面鳥たちはみんなで娘を美しく飾ってくれ、娘は感謝しながら祭へ出かけた。若者達と思いきり楽しく踊り、時を忘れ、そうして気がつけば日は暮れていた。娘は大急ぎで家に走ったが、時すでに遅く、七面鳥はみんな空に飛び立ち、娘の衣装は元のボロに戻ってしまった。

※話はここで終わっている。”魔法使いの言い付けにそむいて失敗したシンデレラ”という感じ。
このシンデレラの項の中で扱った例話には他にないが、シンデレラが七面鳥の番の娘である話は少なくない。フランスの民話にもそういうのがあった。

参考--> 「ガラスの靴のサンドリヨン」「灰かぶり



小さなやけど娘アメリカ

 インディアンの村に三姉妹があり、上二人は意地悪く末娘は心優しい。母は亡く、父が狩りをしていたが、その留守に姉達は妹を苛め、ある日火の中に突き飛ばして顔に火傷を負わせた。父には自分達の注意を聞かずに火に近寄って自分で転んで負ったのだと説明し、父は末娘を責めた。火傷の痕は残り、以後火傷娘と呼ばれるようになった。

 村の外れに大きなテントがあり、大酋長が妹と共に住んでいたが、何故かその妹以外には姿が見えず、ただ脱いだ鹿の皮の靴が見えるだけである。この大酋長が自らの姿を見ることの出来る娘と結婚することになり、村中の娘が挑戦するが失敗する。姉娘二人はめかしこみ、火傷娘はボロ服と父のお古の靴を履いて出かける。姉達は追い返そうとするが、大酋長の妹が止める。姉達は何も見えないのに嘘をつき、大酋長の服装を質問されてぼろを出して追い返される。火傷娘は見事、その肩紐が藤の蔓、そりを引く紐が虹であると答えてテントの中へ迎え入れられた。

 大酋長の妹が集めた夜露で拭くと火傷が消え、髪は黒く、瞳は星のように輝いて見違えるほど美しくなり、更に箱から出した花嫁衣装を着せられ、宝石の付いた椅子に座ると、大酋長が入ってきて笑った。こうして村中の人々を集めて立派な結婚式を挙げた。



参考文献
『幼児に聞かす世界昔話集 一日一話五分間のお話』 西本鶏介著 芸術生活社




SEO 母の日 誕生日プレゼント無料レンタルサーバー プロフ SEO