米福粟福日本

 米福こめぶき粟福あわぶきの姉妹があった。米福は先妻の子、粟福は後妻の子であった。

 ある日、継母は二人を栗拾いにやった。その時 米福には破れ編袋こだし、粟福にはよい編袋を渡して、これにいっぱい拾って来いと言いつけた。二人は山に行って栗を拾い、粟福の方はじきにいっぱいになったが、米福の方は少しも溜まらなかった。そしたら粟福が言った。

「姉さん姉さん、お前の編袋こだしに穴開いでら。山のお堂さ行ったら、まだ剥ぎの爺さまがいるから、こしらえてもらうべ」

 二人は山のお堂に行って、爺さまに袋の穴をつくろってもらった。それで米福の袋もじきにいっぱいになったが、そのうちに日は暮れてつぶつぶと暗くなった。山道に迷っていると、向こうに明かりがぺかぺかと見えるので、行ってみたら、一軒の家があって年寄った婆が一人いた。

 二人が泊めて下さいと言うと、婆は「泊めるもええども、おらには寝るところも着るものもねぇよ」と言う。それでもたって願うと、「そだら泊めてやるが、今に太郎と次郎が帰ってくっと喰われっから、おらの腰元さ入ってろ」と言う。

 二人は疲れていたので、婆の腰元でぐっすり眠った。そのうちに太郎と次郎が帰ってきて言った。

「婆、婆。何だか人臭い」

先刻さきた、里の鳥こが飛んできて、それを取って食ったが、そのかまりだべ」

 それから、息子たちは「豆煎りをしてくろ」と婆に頼んだが、婆は「腰が痛くて豆も何も煎れない」と断って、寝ている子供たちを隠したまま動かなかった。それで息子たちは自分で豆を煎って食べて寝た。

 やがて夜明けになると、太郎と次郎は起き出して出かけて行った。そしたら婆は米福と粟福に、「おらの頭のしらみ、取ってくろ」と火箸を渡した。見ると、かなへびトカゲみたいな大きな虱がうじゃうじゃいるので、粟福は恐ろしがって取らなかったが、米福は火箸を焼いて虱を挟み取って火にくべて殺した。婆は「あぁ、えぇ」と気持ちよさそうにしていたが、「んがには大儀させだ」と言って、米福には小さな宝箱をくれ、粟福には豆煎りをやって、太郎と次郎に見つかって捕まらないように早く帰れ、と家を出してくれた。

 二人は気をつけて行ったが、とうとう途中で太郎と次郎に見つけられて追いかけられた。もう少しで捕まりそうになったので、粟福が先ほどもらった豆煎りを

「後ろさ、大きだ山 出はれ!」

と言って投げると、山がこんもり出た。また追いつかれそうになると、大きな川を出して逃れた。

 やっとのことで家にかけこんで、お母さんお母さん、今来た、と言って栗を渡した。

「どれどれ、二人ともいっぱい拾ってきたな。そんだら煮て食べー」

 母は栗をゆでてくれたが、粟福にはよい栗をやり、米福には虫食い栗ばかりやった。それで粟福は、「母さん母さん、あっこにネズミいる」と言って、母がその方を向いている隙に米福によい栗をころころと転がしてやった。

 

 そのうちに、花輪の町に祭があった。そしたら継母は米福に、

「おらは粟福と祭見に行がはんで(行くので)、留守していろ。そして目かごで裾風呂に水汲んで、粟を十石搗いておけ」

と言いつけて、粟福を連れて祭見物に出かけて行った。米福は言われた通りにかごで水を汲もうとしたが、漏って少しも汲めないので困っていると、旅の和尚さまがきて、「それでは何ぼしたって水を汲めるものでない」と、衣の片袖を裂いて目かごを包んでくれた。今度はこんなに沢山の粟をどうして留守の間に搗きあげたらよいかと途方に暮れていると、雀が来て手伝ってくれたので、これも間もなく搗いてしまうことができた。

 そこへ隣の娘が「米福米福、祭見に行くベー」と誘いに来た。「お母さんが留守していろと言ったから行かれない」と断ったが、「何たて行くベー」と勧めるので行くことにした。着て行く着物がないので山の婆からもらった宝箱を思い出して開けると、綺麗な着物や足袋が入っていたからこれを着た。そうして髪は隣の娘に結ってもらって、祭見に出かけた。

 桟敷に上がって祭を見ていると、粟福が見つけて、「お母さんお母さん、あそこに姉さんが来てら」と言ったが、母は米福には仕事をたっぷり言いつけてきたから、来るはずはないと言った。米福は下にいる粟福に饅頭の袋をぶんと投げてやった。

「饅頭くれたから、姉さんに違いないさ」

「んにゃんにゃ、米福はあんなに綺麗な着物は持たないから、違う人だべ」

 米福は先に家に帰り、いつものぼろ服を着て粉糠だらけになって働いているところへ、母と粟福が帰ってきた。二人は祭の面白かった様子を話し、粟福は無邪気に言った。

「祭に姉さんとそっくりな人が来ていて、饅頭の袋を投げてくれたけ、姉さんも行けば良がけやぢ」

 そこへ、米福を嫁に欲しいという人が来た。継母は、米福の髪ときたら糞や蛇を流したようだし、着物も何も持たないから、粟福の方をもらってください、と言ったが、その人は「なんたて米福が欲しい」と言う。米福が山の婆にもらった宝箱を出すと、それに嫁入り衣装がちゃんと入っていて、それを着て、米福は籠に乗せられてもらわれて行った。

 粟福は羨ましがって、「おらも籠さ乗って嫁に行きたい」と言ったが、誰ももらいにこないので、母が粟福を臼に乗せて、嫁入りの真似をして田のあぜを引っ張って行くと、ごろごろと転げて二人とも田にぽちゃんと入った。そして

羨ましいであ うらつぶ

と言いながら、つぶつぶとそのまま水に沈んで、うらつぶ(たにし)になってしまった。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※何とも納得のいかない話。袋に穴が開いてるのにも気付かず延々栗を拾っていた米福はバカじゃないのかと思う。山姥の虱を取ってやったのも、優しさや勇気と言うよりは、命じられたことを機械的にやっただけのような。祭りの日、辛い仕事を言いつけられて、それが全部終わったにもかかわらず「母さんに留守してろといわれたから」と家に残ろうとするバカ正直ぶり。本当にかごで水を汲もうとしていた点もそうだが、全て言われた通りにしかできない娘なのだ。
 その点、粟福は色々機転をきかせて行動するし、トロい姉を常に庇う。特に、人食いから逃れて家に帰りつけたのは、全て彼女のおかげだ。
 なのに、幸せな結婚をするのは米福だけで、粟福は誰ももらいにこない。器量でも悪かったのだろうか? それとも山姥の晴着を持っていないからか。
 粟福は活動的な愛すべき女性だと思う。結婚なんてなんだ、私は私として生きていくんだ、という気概をもてば、ハッピーエンドに終わったのだろうか。女の最大の幸せは結婚、という思想に飲みこまれ、粟福は哀れ、たにしになってしまう。結婚できない(子供を生めない)女は、しょせん石虫程度のものだ、との暗喩なのだろうか。

参考--> 「糠福と米福



金の履物アルバニア

 あるやもめ男に一人娘があって、やがて新しい嫁さんをもらった。嫁さんには、男の娘より年下の娘が一人あった。

 継母は継娘を苛めて、まだら牛の番をさせた。けれど、牛をきちんと小屋に追い込んで繋ぐことが、彼女にはなかなかできなかった。泣いていると聖ニコラスがきてわけを尋ね、呪文を唱えるだけで簡単に牛を繋げるようにしてくれた。

 翌日、継母は二桶の羊毛を一日で紡げと言った。継娘が泣いていると、また聖ニコラスが来てわけを尋ね、まだら牛に頼めばいいと言う。牛が全部糸を紡いでくれた。

 こんなことがしばらく続き、怪しんだ継母は継娘の後をつけて、牛が糸を紡ぐのを見た。継母は仮病を使い、夫に「まだら牛の肉が食べたい」と訴えた。

 翌日、まだら牛と継娘は逃げ出した。逃げるうちに、ザナ(森の妖精、山姥)の支配地に入りこんだ。

「私の牧草地の草を食べているのは誰!?」

 そう言って飛び出してきたザナと、まだら牛は戦った。勝ったが、翌日になるとまた別のザナが現れた。辛勝して、二日と経たぬ内にまた別のザナが現れた。

 継娘は今度も牛が勝つものと思って笑ったが、牛は怒り出した。

「今度こそ俺は死ぬ。だが、俺の角をとっておけ。家に戻ってまた辛い仕事を言いつけられたら、角を家の敷居の下に入れれば、仕事が片付く」

 牛は三人目のザナに殺された。

 

 継娘は家に戻り、家の中の仕事をするようになった。顔を合わせることが多くなり、継母の娘と仲良くなった。

 継母は巫女のところに行って、なんとか継娘に目にものみせられないかと相談した。

「食べ物にかっこうの卵を九つ入れて食べさせなさい。そうすればかっこうのように痩せて、不幸で禍禍しい姿になるでしょう」

 その計画を実娘が知り、継娘に教えた。そして継娘がかっこうの卵を食べさせられそうになると、部屋の外で「足が折れた! おかぁさーん」などと騒ぎ、継母の気がそれた隙に継娘が卵を捨てるのだった。

 こんなことを三日繰り返し、継母はもう一度巫女の元へ相談しにいった。そして、今度は実娘が何を言って騒ごうとも取り合わず、継娘に卵を食べさせた。継娘はかっこうのように痩せ、禍禍しく醜い姿に変わった。

 

 それでも継母の気はすまなかった。継母はとうとう継娘が死んでしまえばいいと思い、彼女を呪われた水車小屋に行かせた。

 水車小屋には悪魔たちが棲んでいた。娘が小屋の前に行くと、小屋の中から悪魔たちが尋ねた。

「どんな梯子がいいかい」

「あなたのお好きなように」

 すると、鉄の梯子が降りてきた。悪魔たちは何をしに来たのか、と尋ねた。

「継母さんに言われて、とうもろこしの粉を取りに来ました」

「とうもろこしとは何だ」

 継娘はとうもろことの育て方から、収穫した実をひいて粉にし、パンに焼き上げるまでを細かく説明した。

 悪魔たちは、継娘に「かまどを休ませろ!」と命じた。継娘はかまどを掃除した。すると悪魔たちは「パン焼き釣り鐘を落とせ!」と言った。継娘はパンを焼き上げた。(パン焼き釣り鐘とは、パンの練り粉に被せてパンを焼くための蓋。古風な焼き方なのだそうだ。)更に、悪魔たちは「犬に煮ろ!」と叫んだ。継娘は犬におかゆを煮てやった。

 継娘は悪魔たちに認められ、粉にしたとうもろこしを持って無事に帰った。

 継母は実娘にも知恵をつけようと考え、水車小屋にやった。

「どんな梯子がいいか」「鉄のよ。あんたたちは他にどんなのを考えてたの」

 実娘が鉄の梯子で上に上がると、悪魔たちは尋ねた。

「とうもろこしとは何だ」「種蒔いて取って食べるものよ」

「かまどを休ませろ!」実娘はかまどを壊した。

「パン焼き釣り鐘を落とせ!」実娘はパン焼き釣り鐘を落として叩き壊した。

「犬に煮ろ!」実娘は犬を湯で煮た。

 悪魔たちは怒って娘を八つ裂きにし、はらわたを水車小屋に巻きつけた。

マリー、マリー

サンザシの木はくーねくね

はらわたは水車小屋をぐーるぐる!

 継母は七週間泣き通した。

 

 ようやく涙も涸れた頃、継母は日曜日に着飾って教会へ出かけた。継娘は衣装箱から服と金の履物を出して、着飾ってこっそり教会へ行った。彼女が誰なのか、誰にもわからなかった。

 継娘は継母より先に帰ろうとして、履物を脱いでいった。ある金持ちの息子がこれを拾って、持ち主を妻にしようと考えた。じきに継娘を見つけ出し、結婚した。

 妻になり、娘は息子も生んだ。ある日、夫は誰も家に入れるなと言って出かけていくが、留守中に継母が訪ねてきた。

「私にはお前以外にもう誰もいないのだよ」

 娘は継母が哀れになり、戸を開けた。すると、継母はふっと息を吹きかけた。途端に娘は鳥に変わってしまった。

 夫が帰ると、家には息子と鳥しかいなかった。妻の名を呼ぶと、鳥が肩にとまる。怒って棒でぶつと、鳥は妻に変わった。妻はわけを話した。

 その後、継母がまた訪ねてきた。戸を開けまいとするが、「小指一本だけでも見せておくれ」と言うので、つい小指を出した。すると継母はその指を針で刺し、たちまち娘は死んでしまった。

 夫は死んだ妻を葬るに忍びなく、ガラスケースに入れて庭に置いた。死体は腐ることもなく、眠っているようだった。ある日、乞食がこの家にやってきてわけを訊き、小指に刺さったままだった針を抜くと、すぐに生き返った。夫は感謝して、乞食に宝をやった。

 娘が生き返ったと知って、また継母がやってきた。娘はすぐに戸を開けてやって、「夫を殺して二人で暮らしましょう」と言い、家の中に入れた。そして夫が帰ると、夫に言って棒で殴り殺させた。

※…やりきれない話だ。
 実娘がそんなに悪い子だったとは思えない。そりゃ多少は粗忽者だったかもしれないが、こんな無残な殺され方をするなんて。
 ところで、継娘の夫は結構危険っぽい気がする。妻を呼んで鳥が肩にとまったからといって、いきなり棒で殴るか? 妻を殺されかけたうらみがあるからといって、義母を撲殺するしさ…。
 この物語の語り部はかなり博識だったのだと思う。様々なシンデレラ系物語からパーツを寄せ集めて再構成してある。だが粗雑な構成であり、あまり感心はできない。牛と家出するが結局家に帰るし、その時牛が残した角はその後全く出てこない。かっこうの卵を食べさせられて醜く姿を変えられるが、その魔法が解けたと語る場面がない。突然、衣装ケースから晴着を出して、その来歴を語らない。

参考--> 【白雪姫】「瓜子姫」「水車小屋の亡霊



お月お星日本

 むがしあるところに継母があった。先腹の娘をお月、後妻の娘をお星どいった。継母は なじょにも姉のお月が憎げくてならぬ。それにひきかえお星は姉思いの気立てのやさしい娘であった。

 あるづきお父ちゃが急な用事ができて、長ぐ上方さ発づごどになった。そのあどで、お月を殺すのはこの時だとばかり、継母は饅頭を作り、お月のサば毒を仕込んだ。実の娘のお星は甘いものを好むので、「お星お星、姉コのは毒饅頭だで、姉コのど取り替えたりして食うでねぇや」ど あらかじめ言いふぐめた。

 お星は逆らわなかったけれども、さりげなぐ、「姉コ姉コ、外さ遊びに行くべや」とお月ば誘い出して、「姉コなし、俺方オラほの半分あげるから、姉コの饅頭、毒饅頭だはんて、食べるでねぁんすじゃ」ど、裏の竹やぶコさ捨てさせだ。ところが雀コがばさばさと飛んできて、その饅頭突づいていたっけが、見てる間に毒の効き目が現れて、きりきり舞いして死んでしまった。これを見で二人は、あや、怖っかねじぇと顔色変えだ。

 晩方になったので、お月はもう今頃はどごがで毒にあたって死んでるだべやと、継母はにまにましてるづど、二人とも何の気振りコもなぐ家さ戻ってきた。

「あやっ! こんたな筈でなかったが」ど、不思議こたでだが、なじょな訳だが継母にはさっぱり解せなかった。

 そごで今度は、お月の寝床の上のはりさ 石臼玉を仕掛けで殺してけましょうど、「お星お星、今夜、姉コを天井から石臼玉 落として殺すはんて、そのごと誰さも言うなえ」ど言っておいだ。

 お星はそれ聞いで「あい、お母ちゃなし、おら何にも言わねます」ど、寝床さ下がったふりばして、お月をそっと隅っこさ呼んで、「姉コ姉コ、お母ちゃが姉コ殺すべど悪企みしてるから、今夜はおらの床さ来て一緒に寝でござい」ど、お月を自分のどごさ寝がせで、お月の寝床さば瓢箪に朱殻べにがらコ入れだのを布団被せで、さもお月が寝でるふうに見せかけでおいだ。夜中になるど それども知らね継母は、天井の石臼玉の縄をぶっつり切ったから、石臼玉は落ちて、べちょっと下のお月の潰されだ音がした。見るど赤いものが継母の顔さ かかったので、「ああ、これで邪魔者がなぐなって、清々したであ」ど、づもなく喜んで寝床さ入った。

 次の朝はいづにない早起ぎで飯支度をして、「お月、お星、飯だじぇ。起ぎで飯食じゃ」ど起こすど、姉妹は「あい」ど、いづものように二人揃って起ぎできだ。「あやや、これはなんとした事だや」ど、継母はたまげでしまった。

 これでは今までのような生やさしいごどではならぬ。いっそのごど、奥山でも捨てでくるより外に思案もないど、石切どのに沢山ど金をやって石の唐櫃を作らせ、お星に、「お星お星、お月は家に要らない娘だがら、石の唐櫃さ入れで奥山さ捨てで来べど思う。お父が帰ってきてもこのごど言うなぇ」ど固く言い含めだ。「あいあい、お母ちゃのするごどだもの、何言うべすや」ど、お星はその場がら遊びに行ぐふりばして、石切どののどごさ行ぎ、「どうが姉コを入れる唐櫃の底さ、小っこな穴コ一つ開けておいてくで」ど頼んだ。「ああ よしとも」ど、石切どのは気をよく承知してけで、継母には分からねよに一つの小穴コ開けておいでけれだ。

 いよいよお月を捨てる段になるど、お星は、「姉コ姉コ、ここさ菜種を入れでおぐはんて、道々この穴コがら種コを少しずつこぼしてござい。菜種の花コが咲く頃になったら、その目印を当でにして必ず助けに行ぎますがら」ど、菜種の袋ど焼米ど水コまで添えで そっと持だせでやった。

 石の唐櫃さ入れられだお月は、山越え谷越え、まだ山越えでかつがれでいっだ。行くが行くが行って、深い奥山さ行ぎ着ぐど、土の中さ穴コ掘って石の唐櫃ごど埋められだ。

 さで春にもなり鳥コが鳴ぎ、野山は花盛りの頃どもなれば、お星は姉コ助けに行ぐ日が来た。「お母ちゃ、お母ちゃ、山さ三つ葉取りに行って来るがら、握り飯コ作ってけでがんせ」ど、握り飯コを作ってもらい、「おら大飯食らいだがら……」ど、姉コの分まで持って木小屋から木割コ(鉈)持ち出して奥山さ出がげだ。

 山のふもとさ来るど、姉コのこぼしていった菜種が今を盛りど花コを咲かせでいる。その花コがまだずっとずっと奥山の方さ続いでいだ。その花コを頼って、「姉コやぇ、姉コやぇ」……ど、山越え谷越え山越えで行くが行くが行くづど、一所だり丸けく輪になって、ぞっくりと花コの咲いでるどころさ出た。その先ぎには菜種の花コも見えなぇし、はて、姉コ埋げられだの、こごらだなと、木割で土を掘るど、その先にかちりど当だったものがある。よぐよぐ見れば石の唐櫃であった。お星は喜んで、「姉コやぇ姉コやぇ、お星が助けに来たえ」……ど呼ぶど、中で、「ほぅえ、お星が……」ど、かすかな応えがあった。「ありゃ、姉コ生きてれ、保ったか」……ど、お星は喜び勇んで掘るどいうど、唐櫃の隅コがら赤い帯コの端が出ていだ。「あ これだ」ど、その隙間コさ手を引っ掛けで力いっぱい引っ張るど、さしもの重い石蓋もがぱっと開いてくれだ。

「あや懐かしがったじぇ。姉様し、健在でありましたが」ど、姉コを唐櫃の中から抱ぎ起こしてみるど、お月は長い月日を泣ぎ暮らしていだので、目は泣き潰れで盲どなっていだ。お星の流す左の目の涙がお月の右の目に、お星の右の目の涙がお月の左の目に入れば、不思議や両の目がぱっちりど開いだ。

「やれ嬉しや、姉様の目が開いだてか」……ど、お星は持ってきた握り飯コをフキの葉の上でさして(洗って)食べさせ、谷川の水をすぐって飲ませれば精がついてきた。元気はついだども、もうこの上は家さも帰られぬ。これがらの行末方をなじょにしたらよいやらど、二人ども思案に余って ただ泣ぐばかりであった。

 ちょうどそこに鹿狩りに来た殿様の行列が通りがかって、泣ぎ伏している姉妹の姿をごらんになり、「そなだだちは何して泣いている」ど訊がれだ。訊がれるままに、これこれのことと事の仔細をお話申し上げれば、殿様もやれ可哀いやなど、二人をお館に連れでってくれだ。

 日も過ぎ月も過ぎだある時、お月お星はお館から街道の往来を眺めでいると、一人の盲乞食の爺さまが、

天にも地にも替えがたい

お月お星は何とした

お月お星があるならば

何してこのかね叩くべや

かん かん……

ど、鉦コ叩きながら唱え念仏してくるのが見えだ。「はで、あれはオラの父ではないが。姿形ごそ見苦さいが、あの声は懐かしいお父ちゃの声だ」ど、片方から駈け寄っで取りすがれば、お月お星恋しさに目を泣ぎ潰した俄か盲のお父であった。お父は「上方から長い道中終えで戻っでみればこの始末、懐かし二人がどごがに生きてがど尋ね尋ねでのこの廻国」ど語った。三人がお父か、娘かど抱きあって泣げば、お月の涙がお父の左の目に、お星の涙が右の目に入るど、不思議やお父の両方の目はぱっちりど開いだ。

 さでも嬉しや懐かしやと館に帰って、殿様にそのこどの仔細を語り上げるど、殿様も二人の親孝行をいたぐ喜ばれ、親娘三人をこの館に留め置いで、いづまでもいづまでも大事に暮らさせたとさ。

 尊払いどんとはらい



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※いかにも日本人好みの親子再会譚になっているが、原型は[さまよう子供たち]で紹介している姉妹流浪の話型だろう。狩りに出かけた王が、家出した娘を発見して城に連れかえるくだりは、「千匹皮」などにも出ている。
 ここで紹介した例話では「結婚」の条が描かれていないが、別伝によっては、姉は殿様のもとに残り、妹と父は家へ帰るとなっているものもある。
 この話群の結末のバリエーションは多く、最後に継母も改心して家族四人で暮らすもの、ぐんと短く、姉をひたすら庇うお星を見た段階で継母が改心するもの、家出したお月とお星が人買いに攫われて、旅篭や女郎屋(言ってしまえば娼婦館)に売られ、その前で父と再会して帰還するもの、継母がモグラやいたちになって地の底に潜り(片目になると語られるものも)、お月・お星・父は月と星と太陽に変わるものなどもある。とにかく「視力の低下」が繰り返し語られているのは、何か意味があるのだろうか。冥界に入った、という暗喩なのか。

 主人公たちの名前は、様々なバリエーションがあって統一はされていない。お銀・小銀、おりん・こりん(大輪・小輪)など、おおまかに光や天体に関わる名前が多い気がするが…。

 この物語の主人公は、継子のお月ではなくむしろ実子のお星である。ここまで実子が活躍してしまうと、継子の影は薄くなり、継子だけが幸せな結婚をする結末には話を導きにくくなるだろう。

 石の唐櫃に入れられ埋められたお月は、継母に殺されてガラスの柩に入れられた白雪姫に符合すると見ることも出来る。(目が潰れるのは"死"の暗喩である。)

参考--> 【白雪姫】「米福・粟福



カトリンが胡桃をぱちんと割った話イギリス

 アンネという姉姫と、カトリンという妹姫がいました。カトリンはお妃の娘でしたが、姉姫は死んだ前のお妃の娘でした。

 お妃は継娘のアンネが嫌いで、特に美しい顔を憎んでいました。それで、鶏を飼っている女のところへいくと、継娘の顔を醜く変えるように頼みました。

「いいとも。だが、娘が私のところに来る時、お腹がくちくてはいけないよ。何も物を食べさせず、ぺこぺこにさせてよこすんだ」

 お妃は頷いて、アンネに何も食べさせないで、「鶏を飼っている女のところへ行きなさい」と城を出しました。けれど、お腹がペコペコのアンネはこっそりつまみ食いをしていて、魔法がかかりませんでした。それで次の日はつまみ食いをさせないで城を出しましたが、道端のお百姓が豆をくれて、それを食べながら行ったので、やはりだめでした。

 三日目になると、とうとうお妃が一緒に付いていくことになりました。お妃の目があるので、可哀想にアンネは本当に何も口にできませんでした。そして鶏を飼っている女の家に行き、言われるままに壺の蓋をとって覗くと、可愛い顔のついた首がコロリと落ちて、代わりに羊の頭が乗りました。

 お妃は手放しで喜びましたが、羊頭の醜い姿になってしまった姉姫を、妹姫のカトリンはとても気の毒に思いました。誰が何と言おうともカトリンにとって姉さんは姉さんで、大好きでしたから。このまま家にいれば、お妃にもっとひどいことをされるかもしれません。カトリンは姉姫を連れて家から逃げることにしました。

 カトリンは姉姫の頭にリンネルの布を巻いて隠して、こっそりと家を出ていきました。長い長い道を歩いて、歩き疲れた頃、あるお城に辿りつきました。お城の人たちは哀れな二人の姫に同情し、城に泊めてくれました。

 このお城の王様には二人の王子がありました。けれど、弟王子は病気でした。どんなお医者にもどこが悪いのか分からないのですが、毎晩確実に精気がなくなって、ついにはベッドに寝たきりになってしまったのです。しかも、王子のベッドの側で夜通しの看病をする者が、毎晩必ず消えてしまい、朝まで残っていたためしがないのでした。

 王様は、王子の寝ずの看護ができた者に銀1シェッフルを与えようと言い、人々が驚いたことに、カトリンが名乗りをあげました。

 カトリンは王子のベッドの側で、じっと寝ずの番をしていました。夜中の十二時になったとき、寝たきりのはずの王子がぱっと飛び起きました。カトリンが寝たふりをして見ていると、王子は盛装に着替え、階段を降りていきます。そんな階段、さっきまで無かったのに。そして犬をお供に、馬に乗って出ていきました。カトリンはすばやく馬の後ろに飛び乗りました。けれど、王子は気付きません。

 馬は森を駆け抜けていきます。カトリンは馬の背から手を伸ばして、木々に実っていた胡桃の実を取ってエプロンに入れました。やがて、馬は丘(妖精の塚)に到着しました。

開け 開け 緑の丘よ

若い王子を 馬や犬と一緒に入れておくれ

 王子がそう唱えたのを聞いて、カトリンはすばやく小声で付け加えました。

「それから後ろの女の人も」

 丘が開き、王子と馬と犬と、カトリンを迎え入れました。丘の中では妖精の舞踏会が開かれており、王子は妖精の貴婦人たちに魅入られていて、一晩中、狂ったようにダンスを続けていました。こんなに休みなく踊ったら、どんなに元気な男の子も、疲れて病気になってしまうに違いありません。

 カトリンは目立たないように会場の隅に隠れて、一晩中この様子を見ていました。

 王子が疲れ果てて倒れそうになった頃、一番鶏が鳴き、舞踏会はお開きになりました。王子はフラフラになりながらも馬に乗って犬を連れて(そしてまたこっそり馬の後ろに飛び乗ったカトリンも連れて)、城に帰っていきました。

 朝になり、あのいたいけな姫も姿を消しているだろうと、沈痛な面持ちで王子の部屋にやってきた王様たちは、カトリンが暖炉の火の前に座って、ぱちんと胡桃を割っているのを見ました。王様は驚き感心して、もう一晩王子の看護をしてくれと頼みました。

「金1シェッフルいただけるのなら」

 カトリンは言い、王様は承知しました。

 その晩も同じことが起こりました。カトリンは、今日は王子を観察するのをやめて、会場の様子を見ることにしました。小さな妖精の子がいて、杖を持って遊んでいます。独り言のように言いました。

「この杖で三度打てば、羊頭も治るのにね」

 カトリンは、途中の森で取ってきた胡桃を、妖精の子の足元に転がしました。まず一つ。妖精の子が驚いて胡桃を見ます。更に二つ目。妖精の子は注意を奪われて、胡桃を追い始めました。そして三つ。妖精の子は杖のことなんて忘れて放りだし、胡桃を拾います。その隙に、カトリンは杖を取って隠しました。

 翌朝、王様たちは今日も無事に胡桃を割っている娘の姿を見ました。それから、カトリンは姉姫のところに行き、杖で三回叩くと、醜い羊の首がコロリと落ちて元の可愛い頭が乗りました。姉妹は喜び合いましたが、カトリンは今晩も王子の寝ずの番をすることになっていました。「今晩も寝ずの看護を」と頼む王様に、カトリンはこんな約束を取りつけていたのです。

「もしも弟王子様と結婚できるのでしたら」

 カトリンは、妖精に魅入られたこの哀れな王子を救いたいと思っていました。放っておけば、いずれ精気を使い果たして死んでしまうでしょう。

 その晩も王子にくっついて妖精の舞踏会へ行くと、あの妖精の子が小鳥と遊びながらこう呟くのを耳にしました。

「もしもお前を三口食べたなら、あの王子だって目がさめて、すっかり元気になるだろうにね」

 カトリンは胡桃を転がして、妖精の子が拾っている間に小鳥を捕まえました。そしてお城に帰ると、胡桃を割る代わりに小鳥を料理しました。

 鳥料理を王子の枕元まで運ぶと、ベッドにぐったり臥せっていた王子が顔を上げ、抗えないように匂いを嗅ぎました。

「なんて美味そうな匂いだろう……何も食べられないと思っていたのに。一口だけ食べてみたい」

 王子は横たわったまま、なんとか一口食べました。ところが、呑み込むと少し体が起こせるようになりました。「美味しい。もう一口食べたい」と二口目をぱくり。すると半身が起こせるようになります。そして三口目を食べると、王子は夢から覚めた心地になって、ベッドから出て立ちあがりました。これまでのことがまるで夢幻のようで、あれほど妖精たちに焦がれていた気持ちも消えています。王子は、はじめてまじまじと、目の前の料理を食べさせてくれた女の子を見ました。妖精のような美しさは無いけれど、快活で賢そうな、この可愛い姫君を。

 やがて、王様たちが王子の部屋にやってくると、王子はとっくにパジャマも着替えて、カトリンと一緒にばちんと胡桃を割っていました。

 二組のカップルのために盛大な結婚式が開かれました。姉姫のアンネはカトリンのおかげで元の姿を取り戻しましたが、その美しさを見て、兄王子がすっかり夢中になってしまったのです。

 こうして元気な娘は病気の王子と、病気の娘は元気な王子とそれぞれ結婚して、幸せに暮らしました。

※「くるみ割りのケイト姫」と言った方が通りがいいかもしれない。イギリスの人気の民話で、これを元にした長編ファンタジー小説もある。
 前半までは継娘のアンネが主役のようなのに、後半からは完全に実娘のカトリンが主役になる。アンネと兄王子のくだりが省略された感じだが、醜い獣の姿の娘が美しい正体をあらわす、[千匹皮]的な展開があったのかもしれない。二人とも幸せになって、この手の話の中では文句なしの最大ハッピーエンドだ。
 妖精の子が拾わずにおれない胡桃は、生命の果実なのだろう。カトリンが胡桃を割っている点に、なにか古い信仰の片鱗があるのかもしれない。暖炉の前で 胡桃を割るのは、胡桃を火に投げこんでヒビで恋占いをする習俗にかかわるだろうか。どことなく性と豊穣の匂いがする。
 西欧の民話には女が胡桃を割ると中から素晴らしい糸や衣装が出るモチーフがあるが、それとも関連するかもしれない。

参考-->「踊り破れた靴」




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