これは【魚の恋人】の完成形なのかもしれない。
どういうわけか、シンデレラ系民話を見ていると、シンデレラは水神に関わっていることが多い。現世と冥界の境界を越える(霊力を得る)という意味もあるのだろうが、"王子"に逢いに行くとき溝や川を渡らねばならない。この川で出会った男(水神)が魔法使い役になったり、果ては彼と結婚してしまう話もあるのだ。それ以外でも、[魚とシンデレラ]の導入から、そのまま冥界に行って水神と結ばれる形になっていることがある。
世界の初めには、雨期というものはなかった。雨は一年中穏やかに降ったから。
ある村にとても美しくて気立てのよい娘かいた。母を助けるために家事を全て引き受けたが、とても手早かったので昼までには全部片付いた。すると娘は、母の許しを得て他の家へ手伝いに行った。そんなわけで、村中の者が彼女を好いて、”小さい娘”と呼んでいた。
不幸にも母が死んで、父は再婚した。継母は魔女だと評判で、村中の者に恐れられていた。彼女も前の結婚で一人の娘を持っていたが、この娘は醜くて性質も悪かった。
継母とその娘は一日中継娘に家事をさせ、父が畑から戻る頃合いになると家から追い立て、言った。
「あんたの娘は怠け者で役立たずだよ。私の娘が家事をやっているのに、あの子は河岸に座って水を見ているだけだ」
父は娘を呼んで叱り付けた。娘はうちひしがれ、隣近所を訪ねる気にもなれず、独りで寂しく過ごしていた。
三、四日後。二匹の小さい魚が娘の座っている河岸にやって来て、彼女を見つめた。翌日から、娘は僅かなご飯を持って来ては魚を呼んで食べさせ、話し掛けるようになった。
薄灰色の縞がある 小さい魚さん
黄色い縞のある 私の小さい魚さん
出ておいで、さあ 出ておいで
こうして毎日魚を可愛がって、娘の心は癒されるのだった。
しばらくすると、継母は娘に朗らかさが戻ったのに気が付き、こっそり後をつけて全てを見聞きした。そして翌日、河岸に行って呼んだ。
薄灰色の縞がある 小さい魚さん
黄色い縞のある 私の小さい魚さん
出ておいで、さあ 出ておいで
しかし魚は出てこなかった。継母の声は乱暴でしわがれていて、娘とは似ても似つかなかったからだ。継母は腹を立てて家に帰り、継娘を河岸にやった。そしてまたその後にそっと付いていって、継娘が魚を呼び出した途端、大きな石を叩きつけて殺してしまった。娘は嘆き、継母は邪悪な哄笑をあげながら帰っていった。
「ああ、可哀相な魚。私の出来ることは、お前たちを薪の上で焼いて弔うことだけだわ」
娘は い草の薪の上に二匹の魚を乗せて火を付けた。すると、脂がどんどん出て火が消え、脂は山となって盛り上がり、娘の腰の高さほどになった。娘がその山に飛び乗ると、山は更に高くなって、月にまで達した。
月の女神は鏡の前に座って化粧をしている最中だった。
「おばあさま、どうか私をあなたの女中にして、手許においてください。こんなに遅くなってしまっては、父がひどく怒るでしょうから」
「お前は良い娘のようだが、いつまでも私のところに留まるわけにはいかないよ。だって私は毎月死ぬんだからね」
溜息をついて月の女神は言い、黒い雲を指差した。
「あの雲の方がお前のいい家になるだろう。あそこに座っている老人は雨の神で、後ろに立っているのは甥の雷光さ。雨の神は手に雷を持っているけど、優しい老人だよ。だから、あそこへ行って頼んでごらん」
そこで娘は、雨の神に呼びかけた。
「おじいさま、私は怒っている父の許へ帰るのが怖いんです。ですから私をお手許において、女中として使ってください」
すると黒い雲が近付いて来て、雨の神の言うのが聞こえた。
「わしの家にはちょうど女手がいるところだ。さあ、こちらへ入っておいで」
そこで娘は黒い雲へ入っていき、それからは毎日、掃いたり拭いたりして黒雲を清めた。しばらくすると甥の雷光が娘を好きになり、やがて二人は結婚した。
結婚式の翌日、娘は夫に言った。
「私達の習慣では、娘は結婚すると両親に挨拶に行きます。もし雨の神様がお許しになるなら、一緒に私の村のあの魚脂の山に降りて、私の父を訪ねましょうよ」
雨の神が許してくれたので、幸福な二人はキラキラ輝く衣装を着けて、娘の村の魚脂の山に降りていった。村中の者が大喜びして彼らを迎えた。継母も喜んでいるふりをして娘夫婦の為に祝宴を開いたが、その目的は、雷光に犬の肉を食べさせて、その光を失わせることだった。
午後になって祝宴が始まり、お客達の前には様々なご馳走が並べられた。継母は笑顔をほころばせながら、雷光の前に「大切な婿殿の為の特別料理です」と、一皿の料理を運んできた。雷光が今しも料理に手を付けようとした時、一人の少年が泣きながら飛び込んで来て、それは自分の愛犬の肉だ、と叫んだ。その場にいた人はみな継母が何をしようとしたか悟り、雷光に「それは犬の肉です、捨てなさい」と警告した。娘と雷光は驚きと屈辱のままに魚脂の山に駆け登り、天に戻った。
二人の話を聞くと、雨の神は激昂した。
「恩知らずの人間どもめ! わしは奴等の哀れな娘を保護したり、雨を恵んだりしてきた。それなのに、奴等は犬の料理を出してわしの甥を侮辱したのじゃ」
「ご主人様」と、娘が口を挟んだ。「どうぞ人間全てに対してお怒りにならないで。私だって人間の一人です。それに、非難に値するのは私の継母だけですわ」
「お前はもう人間じゃないのだ」と、雨の神は答えた。「お前は今は女神の一人なんじゃ。だから、わしはもうお前がお前の村へ帰れんようにしてやらなくては」
こう言って雨の神が、猛烈な力で魚脂の山を蹴飛ばしたので、それは目茶苦茶に壊れ、シッタン川の低地一帯に転がり落ちて、今の山々や丘になったのだった。それから雨の神は下界を見下ろしたが、五月の光の下で村はとても明るく美しく見えたので、またもや腹を立て、空全体を雲で覆い、甥を側に呼んで雷を落とし始めた。
震え上がった村人達は家の中へ隠れたが、その間に真っ黒な雲は雷光で引き裂かれ、雨は滝のように降り注いだ。娘が膝を折って主人に訴えたが、無駄だった。
それでも、なんとか夫を雨の神から引き離す事が出来たので、雷はやんだ。でも雨はいつまでも降り続けた。雨の神の気がおさまるまでには四ヶ月かかった。
雨の神が機嫌を直したのを知ると、娘は大喜びで、下界で怯えている人々を元気付ける合図として、幾色も色のついた吹き流しを空に飛ばした。雨は次第に小さくなり、やんだ。
しかし、雨の神は自分の甥が受けた侮辱を忘れることは決してなかった。それからも毎年、あの日が巡ってくるごとに、再び怒りを新たにして雷を投げつけ、滝のような雨を降らせて人々を震え上がらせた。そして四ヶ月経って機嫌が直ると、また”小さな娘”が空に吹き流しを飛ばす。それを見ると村人達はほっとして言い合うのだ。
「ごらん、”小さな娘”の吹き流しが出たよ。ほら、虹が出た! 雨期もまもなく終わるよ」
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
※ノアの方舟の類話群を参照してみると面白いだろう。神の怒りによる洪水、その終息としての虹と、モチーフが同一である。
ダダパン村に住む
川へ食器洗いに行かされたクニングが、あまりの辛さにアラーの神に祈って泣いていると、巨大な
そんなある日、王子アンデ・アンデ・ルムトが民間から嫁選びをすることになり、上の姉二人は着飾って王宮へ出かけるが、クニングは「ダメよ、あんたはブスだもの」などと言われて置いていかれた。するとコウノトリが来て、「私の手助けも今日が最後だよ」と、
一方、姉達は橋のない川に行く手を阻まれていた。川の神に祈ると
その頃クニングは例の川にさしかかり、大蟹に渡してくれと頼んだが、大蟹はクニングのみすぼらしい姿を笑うばかり。怒ったクニングが魔法の椰子の葉脈で川を打つと、たちまち川が干上がった。大蟹は元に戻してくれるよう懇願し、クニングは水を戻してやった。それから帰りがけの姉達に出会ってバカにされたが、構わずに王宮に行った。母の王妃はクニングのみすぼらしさを見て邪険に追い返そうとするが、王子は「この人こそ私の待っていた人だ」と中に入れて、洗って着飾らせ、結婚した。
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
※物語の舞台は「バワング・プティとバワング・メラー」と同じダダパン村。
処女性を失った姉達は王子との結婚の資格を失う。目的地に行く途中で水(溝)に行く手を阻まれ、そこで助けてくれた者と結婚してしまう展開は、「小町娘とあばた娘」と同じだ。
シンデレラは着飾って王子に会いに行くものだが、ここでは着飾らなかったが故に処女性を保持し得て成功を収めたわけだ。
大蟹は水神そのものである。ところが、クニングは水神を凌駕する呪力を身につけている。魔法の椰子の葉脈とは何なのだろうか? 水を打って使っているのでイメージ的には「鞭」だが。ここでいう椰子は生命の木で、生命の木は水の源なのだから、大蟹よりも強い水の支配権を持つということか?
異伝では、最初に主人公を助けるコウノトリと王子アンデ・アンデ・ルムトは同一人物で、最初に結婚の約束をしたことになっている。ユユカングカングは「カニのような男」で、川の渡し守。クニングは処女性を守り通して川を越え(つまり、冥界に下って)夫に逢いに行く。
参考 --> 「クワシ・ギナモア童子」
昔、ヨニという名の美しい娘が、意地悪な継母と一緒に暮らしていました。ある冬の日、継母は山から青菜を採ってくるように命じました。ヨニは山に行って、雪をかき分けて青菜を探しましたが、全く見つけられませんでした。山奥をさまよううち、ヨニは大きな岩穴を見つけました。石門にさわると開いたので、中に入ると、そこは春のような別天地でした。花が咲き、小鳥が歌っています。一人の少年が青菜を摘んで、ヨニに差し出して言いました。
「私の名前は
枝垂れ楊、楊の葉よ
ヨニが来たから門を開けておくれ
と言って下さい」
それから、楊の葉はヨニに白と赤と青の瓶を渡して言いました。
「白い瓶の薬を骨になった人の上にまけば骨に肉がつきます。次に赤い瓶の薬をまけば血が巡ります。最後に青い瓶の薬をまけば生き返ります」
ヨニが青菜を摘んできたのを見て驚いた継母は、翌日もヨニを青菜摘みに行かせましたが、ヨニはまた青菜を摘んで戻ってきました。不思議に思った継母はヨニを青菜摘みに行かせて、そのあとをつけて行きました。そして、ヨニが「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言って少年に迎えられて門の中に入り、青菜を持って出てくるのを見てしまいました。
翌日、継母は少年を訪ねて行き、石門の外で「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言いました。そして、ヨニを迎えに出てきた少年に飛びかかると、「お前はウチの娘におかしな事をしたんだろう!」と散々叩いて、家に閉じ込めて火を放ちました。それから家に戻って、ヨニに青菜を摘んでくるように言いました。
ヨニは石門の外で「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言いましたが返事がありません。ヨニが自分で石門を押して、なんとか少し開けて中に入ってみると、楊の葉が骨になって倒れていました。ヨニは驚き悲しみましたが、その時、柳の葉のくれた薬のことを思い出しました。大事な物だからといつも持ち歩いていたのです。白い瓶の薬をまくと、骨の上に肉がついて生前と同じ身体になりました。次に赤い瓶の薬をまくと、楊の葉の身体に血が巡りました。最後に青い瓶の薬をまくと楊の葉は生き返りました。楊の葉はヨニの手をとって言いました。
「私は天上で雨を降らせる仙官でしたが、上帝の命令であなたを助けるために地上に降りてきていました。あなたは私の花嫁になるのです」
こうして、二人は虹に乗って天に昇っていきました。継母はヨニが帰ってこないので、もう一度あの石門に行きましたが、門は二度と開くことはありませんでした。
参考文献
『世界の民話(全三十七巻)』 株式会社ぎょうせい
※別伝では取りに行かされるのはイチゴだった。「十二の月」や「森の三人の小人」にも似ている。
苛められている継娘が合言葉を唱えて秘密の存在に逢っていて、それを知った継母が相手を殺してしまうくだりは、[魚とシンデレラ]や【魚の恋人】の話群の魚殺しと同一モチーフだ。ここでは洞窟(岩)の中で逢っているが、「南の島のシンデレラ姫」で魚が飼われているのは洞窟の前の水盤である。(洞窟、開く岩は冥界の表象だ。)
ちなみに、アイヌの間では「楊――柳」の葉が水に落ちてシシャモに変わったと言われている。恐らく「楊の葉」という名前は「魚…水神」の符牒であろう。それを裏付けるように、彼は自らを「雨の神…水神」であると述べている。
なお、順番に使う白と赤と青の薬は、生命の水と死の水の変形だろう。ロシアの民話では、バラバラにされて殺された人間にまず死の水をかけると肉体が繋がって治り、治った死体に生命の水をかけると生き返るというモチーフがよく現われる。この順番を間違えると生き返らない。
骨になった死体に、まず肉をつけ、血を通わせ、息を吹き返させるといった段階的に甦らせるエピソードは、「プチュク・カルンパン」にも現れている。
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