陳仲挙(後漢の人)がまだ出世していない頃の話である。
仲挙が黄申という人の家に泊まったその日、丁度、申の妻がお産をしていた。
その夜のこと。戸を叩く者があるのに、仲挙だけが気付いた。やがて家の裏手から「客間に人がいる。入ることができないぞ」と声がする。戸を叩いていた者は「それでは裏門から入ろうか」と言って歩いていき、やがて戻ってきて、待っていた方と問答をはじめた。
「男か女か? 名前はなんという? その子の寿命はいくつか?」「男の子で、名前は奴という。寿命は十五歳のはずだ」
「なんで死ぬことになっているのか?」「刃物で死ぬことになっている」
翌日、仲挙は「私は人相を診る術を心得ています」と言い、申の家族に「この子は刃物で死ぬ相がある」と告げた。それがために、両親は子供に小刀一つ持たせないように注意して育てたのだが、子供が十五歳になったとき、梁の上に置いてあった
太守になっていた仲挙はこのことを知り、「これが人の運命というものだ」と嘆息したという。
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※以下、類話を列記する。
東下りの者、人の家に宿りて産にあふ語『今昔物語集』巻二六 日本
東下りの男がお産を控えた家に宿をとり、出産のどさくさの中を異様な男が「年は八歳、自害」と言って出ていくのを見た。
数年が経ち、男は再びその家に宿を取った。そういえばあのときの子供はどうなったかと尋ねてみると、一年前、八歳のときに、枝を払うため登った木から転落、持っていた鎌が刺さって死んだという。
されば、人の命はみな産まれるときに定まっているものである。
産まれ児の運1日本 徳島県美馬地方 『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
ある男が、行き暮れて岩屋に泊まっていたとき、化物 が木の上で話しているのを耳にした。鑿 に名を付けられてしまった。寿命は七つ」
「今夜お産があったが、遅れて行ったので先に
翌日、男が家に帰ると、自分の子が産まれていた。
子供が七歳のとき、棚から鑿 が落ちてきて、それが刺さって死んだ。
※この地方では子供が産まれると“物”に命名されないように「ととの子、かかの子」 と呼ぶ風習があるそうだ。西欧や中東の「名付け親」の思想みたいで面白い。名前を付けることにより、生命や運命を左右できてしまうのである。
参考--> 「ノミに殺される」
産まれ児の運2日本 青森県八戸地方 『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
ある男がお堂に泊まっていると、夜中に馬の蹄の音がし、神の話し声がする。鑿 で死ぬ」
「今夜産ませてきた児は男で、寿命は十九、職は大工で、
男が 家に帰ると、隣家に男児が産まれている。
この子供は、十九歳になって鑿 を磨いていた時、飛んできた蜂を追い払おうとし、誤って自分の喉を刺して死んだ。
虻と手斧1日本 宮城県登米郡豊里村 『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
行き暮れた六部(旅の聖職者)が観音堂に泊まった。夜中に目を覚ますと、観音と山神が問答している。虻 と手斧 」
「今夜の産まれ児は男の子だ。命数は二十五。病名は
翌朝になって六部が村に行ってみると、果たして、昨夜男の子が生まれたのだと言う。
この子は長じて大工になったが、二十五歳のとき、仕事中にたかってきた虻 を追い払おうとして、持っていた手斧 で誤って自分の膝を切りつけ、その傷が元で死んだ。
※日本では、『産神問答』のうち刃物によって死ぬ型のものを「虻と手斧」型と呼ぶ。
日本に伝わるこの型の話では、運命を予言された者の職業が「大工」であることが多い。まず中国から鑿 が刺さって死ぬという話が伝わり、鑿 は大工が持つ道具だから、という連想でこうなったのだろうか?
蛙と鋏ルーマニア人 『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社
ある女が男の子を産んだ。長い間子供が出来なかったので、その喜びようは並々ではなかった。ところが、産まれた後に現れた運命の女神 たちが、「この子は二十歳で殺されるだろう」と定めた。「一匹の蛙 がその死の原因になるだろう」と。
男の子は豊かな才能に恵まれ、宮廷で皇帝の右腕となり、二十歳になったとき、皇帝の娘と結婚することさえ決まった。だが何を思ったのか、羊飼いのいる牧場に行って、ぜひとも ある羊の毛を刈らせてほしいと頼んだ。蛙 が潜んでいて飛び掛ってきたので、若者は持っていた毛刈り用の鋏 で防ごうとして、誤って自分の目を突き、その場で死んだ。
羊の毛の下には一匹の
羊と鋏セルビア人とクロアチア人 『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社
ある日、旅人がある家にやってきて、泊まった。その家には大きな喜びがみなぎっていた。ちょうど、一家の主人に息子が産まれたところだったからだ。運命の女神 がやってきて、こう定めた。
みなが寝静まった深夜、三人の
「この子は二十二歳の誕生日に羊の毛刈りをしているとき、自分の体を切って死ぬだろう」
旅人はそれを聞いたが、父親には知らせず、ただ、予言された日には必ずここに戻ってこようと心に決め、実行した。
定めの通り、若者は二十二歳の誕生日、羊の毛刈りの作業中に自分の体を切って死んだ。そこで、旅人はかつて見聞きした一部始終を父親に打ち明けたという。
蛇と大鎌マケドニア人 『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社
「お前は蛇に噛まれた傷が元で死ぬだろう」
後に、男は草原に行って一匹の蛇を見つけた。持っていた大鎌で攻撃したところ、自分の頭を切り落としてしまった。
※蛇に噛まれた傷では死んで無いじゃん。運命の女神もいい加減。
えんこと錐 日本 徳島県 『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
「あなたは”えんこ”に捕られて死ぬでしょう」と易者に言われた男がいた。錐 で突き刺そうとしたが、間違って自分の手を突いてしまい、それが元で死んだ。
その男が村の芝居を見に行ったとき、幕に”えんこ”の絵が描いてあった。それで、その絵を
※”えんこ”とは猿猴 のこと。つまりサル類のことなのだが、猿猴とは河童の別称でもあり、水の魔物に命を取られる話にも関連する。手を刺して死ぬという点では、『いばら姫』も思わせる。
参考 --> 「水の命16」
虻と手斧2日本 岩手県 『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
六部が山神の堂に泊まっていると、山神の話し声が聞こえる。
「今夜はお客があって行かなかったが、首尾はどうだ」「母も子も丈夫だ。年は七つ、手斧で死ぬ」
七年経って六部がその村に行くと、大工の親父が子供の寝顔に虻がたかったので手斧で追い払って、間違って子供を殺した、と大騒ぎになっていた。六部は七年前のことを思い出し、今日がその日だったと思い当たった。
リンゴとナイフラトビア 『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社
ある金持ちに男の子が生まれた。誕生の後、女神ライマが運命を定めて言った。
「この子は十歳で死ぬだろう」
父親は息子を小さな島に連れて行き、そこに隠した。そこならば死神も息子を見つけられまいと考えたのだ。こうして息子はその島で生活したが、ある日、難破した船乗りが命からがらこの島にたどり着いて、それから二人は一緒に暮らした。
ところが、十歳になったとき息子は病気になった。船乗りが彼を看護した。
ある日のこと、病気の子供はリンゴを欲しがった。そこで船乗りは病人のベッドの上に身をかがめ、壁からナイフを取ってリンゴを切ろうとした。その瞬間、船乗りは足を滑らせ、男の子を刺し殺してしまった。
※この話の原型は『千夜一夜物語』にある。
宝石商人の息子の運命を、占星師と賢者が告げる。「この子は十五歳のとき、ハディーブの息子・アジーブという君主に殺されるだろう」。父親は孤島に息子を幽閉する。時が流れ、君主アジーブがその島に漂着して宝石商人の息子と友達になる。だが、ある日アジーブはスイカを切ろうとして、誤って友人を殺してしまう。アジーブは嘆く。
「まことに私たちはアッラーの被造物です。アッラーの元に帰り行く者です。ああ、イスラム教徒よ、この若者に占星師や賢者が定めたあの四十日の危険な時期は、あと一晩しか残っていなかったのです。しかも、この美しい青年の定められた死は私の手から起こったのです。ああ、こんなスイカなど切ろうとしなければよかった! ああ、なんという不運! なんという悲惨なことでしょう! けれども、定められたことはアッラーが成就したもうのです!」