小さな赤ずきんちゃん1『ペロー童話集』 著:シャルル・ペロー フランス

 昔、ある村に、それまで誰も見たことがないくらい可愛い女の子がおりました。おかあさんはこの子をたいそう可愛がっていましたが、おばあさんはそれに輪をかけて可愛がりました。おばあさんはこの子のために小さな赤い頭巾をこしらえてやりましたが、これがとてもよく似合ったので、どこへ行っても赤ずきんちゃんと呼ばれておりました。

 ある日、おかあさんはパンのついでに焼き菓子ガレットを焼いてから、赤ずきんちゃんに言いました。

「おばあちゃんが、ご病気だそうよ。どんな具合だか見ておいで。ガレットとこのバターの壼をもってお行きなさい」

 赤ずきんちゃんは、隣村のおばあさんのところに、すぐさまお見舞いに出掛けて行きました。森を通りぬけようとしたとき、赤ずきんちゃんはこの辺りに住む狼おじさんに出会ってしまいました。狼は赤ずきんちゃんをとても”食べたくなった”のですが、森にはきこりたちがいたので手が出せません。狼は、どこに行くのかと赤ずきんちゃんに尋ねました。可哀相に、女の子は足をとめて狼の話に耳を傾けるのがどんなに危険なのか知らないものですから、こう答えてしまったのです。

「おばあちゃんのお見舞いに行くのよ。母さんのお使いでガレットとバターの壼を持っていってあげるの」

「おばあちゃんって、遠くにお住まいかい」と、狼は尋ねました。

「ええ、そうよ。むこうに見える粉ひき小屋をまだ通り過ぎて行かなきゃならないわ。そうして、村に入って最初に見える家が、おばあちゃんの家なの」と、赤ずきんちゃんは言いました。

「なるほど、それじゃ、わしもおばあちゃまのお見舞いに行くとしよう。わしはこっちの道を行くから、あんたはあっちの道をお行き。それで、どっちが先に着くか競争しよう」と、狼は言いました。

 狼は近い方の道を全速力で駆けて行きましたが、小さい女の子は遠い道の方を、ヘーゼルナッツを拾い集めたり、蝶々を追いかけたり、小花を摘んで花束を作ったりして、遊びながら行きました。その間に、狼は速やかにおばあさんの家に着きました。戸を叩きます。トン、トン。

「どなたかね?」

「孫の赤ずきんよ」と、作り声で狼が言いました。

「母さんのお使いで、ガレットとバターの壼を持ってきたの」

 おばあさんは、気分がすぐれずに寝ていたものですから、ベッドの中から声をはりあげて言いました。

「紐を引きなさい。そしたら、さんがはずれますよ」

 狼が紐先の玉をひっぱると、戸が開きました。すぐさま狼はおばあさんに飛びかかり、あっと言う問に食べてしまいました。なにしろ、もう三日も何も食べていなかったものですから。その後で戸を閉めると、狼はおばあさんのベッドに横になって、赤ずきんちゃんを待ちました。

 しばらくして、赤ずきんちゃんがやってきて戸を叩きました。トン、トン。

「どなたかね?」

 狼のしわがれ声を聞いた赤ずきんちゃんは、最初は恐がりましたが、おばあさんはきっと風邪でもひいたのだと思い、こう答えました。

「孫の赤ずきんよ。母さんのお使いでガレットとバターの壼を持ってきたの」

 狼は少し優しい声にしてベッドの中から言いました。

「紐を引きなさい。そしたら、さんがはずれますよ」

 赤ずきんちゃんが紐先の玉を引っ張ると、戸が開きました。女の子が入ってくるのを見ると、狼は毛布の下に隠れたまま言いました。

「ガレットとバターの壼は、そこのひつの上に置いておくれ。それから、こっちに来ておばあちゃんと寝なさい」

 赤ずきんちゃんは服を脱いで布団の中に入ろうとしましたが、寝間着を着ているおばあさんの様子が変なものですから、とてもびっくりしました。それで言いました。

「おばあちゃん、なんて大きな腕をしてるの?」

「それは、お前をより強く抱きしめられるようにさ」

「おばあちゃん、なんて大きな足をしてるの?」

「それは、より速く走れるようにさ」

「おばあちゃん、なんて大きな耳をしてるの?」

「それは、よりしっかり聞こえるようにさ」

「おばあちゃん、なんて大きな目をしてるの?」

「それは、よりよく見えるようにさ」

「おばあちゃん、なんて大きな歯をしてるの?」

「それは、お前を食べるためさ!」

 そう言うが早いか、このよこしまな狼は赤ずきんちゃんに飛びかかり、すっかり食べてしまいました。

 

 教訓

 これでお分かりだろう、幼い子供たち。とりわけ、若い娘たち。

 美しく、育ち良く、品の良いお嬢さんは、誰とでも気安く話すものではない。

 その挙句、狼に食べられたとしても、少しも不思議ではないのだから。

 一口に狼といっても、すべての狼が同じとは限らない。

 抜け目なく取り入ってくる、少しも粗野でない、物静かで優しくて愛想が良くて朗らかなヤツもいる。

 ヤツらは若い娘さんについてきて、家の中まで、果ては寝室にまで入りこむ。

 ああ、心得ていなくちゃいけないよ、

 あらゆる狼の中でも、こういう優しげな者こそが最も危険なのだということを。



参考文献
『完訳ペロー童話集』 シャルル・ペロー著、新倉朗子訳 岩波文庫 1982.

※文献上最古の『赤ずきん』。一般向けに出版されたのは1697年。



赤頭巾ちゃんの生と死 ――ある悲劇――作:ルートヴィッヒ・ティーク  ドイツ

第五場 祖母の家の中

○時は夕暮れ、狼がベッドの中にいる

運よくも入りこめたわい、ネズミ一匹起こさずに。門が開けっぱなしで、家の戸も開けっぱなし。ここまで来れたは、幸運の星の導きというものさ。ばあさんはつかまえた。ばあさん、ご機嫌悪くて、手向かいはしたが、さっさと息の根を止めてやったぜ。今じゃベッドの下でお陀仏してる。そんなわけで、俺が今待っているのは赤頭巾の御到来。だが、事を筋書きどおりに運ぶには、手抜かりは許されない。ばあさんのナイト・キャップをどれ、被ってみるとしよう。

○狼はキャップを被る

 それから、この古い寝間着も……。

○狼は寝間着を着る

 さあ、これでうまくいくだろう。あとは寝たふりをしているだけ――日が暮れる、日が暮れる。暗くなるのももうすぐだ。

○戸をたたく音

 ほら、赤頭巾が来た。

赤頭巾 まあ、おばあちゃん。もうお休みなの。

 ええ、そうなの。頭がえらく痛むもんでね。

赤頭巾 鶏肉をもってきたわ。おかあさんがよろしくって。少し食べれば、気分が良くなるのに。でも、まあ、おばあちゃん、枕の上に足がのってるわよ。それに、何ておかしな手だこと。毛むくじゃらよ。

 これでもしっかり物がつかめるから、心配はご無用。

赤頭巾 おかあさんの言い付けだから、今夜は泊まっていくわ。暗がりを家に帰るのは感心しないのですって。あら、まあ、おばあちゃん、なんて大きな耳をしてるの。おばあちゃんの耳は、そんなにとび出てなくて、そんなに長くないはず。

 いい子、いい子、気にしない。これでもよく聞こえるんだから。さあ、お休み。お前がごちゃごちゃ言うから、この年寄り頭がこんぐらがってきた。

赤頭巾 きっと寒いんだわ。歯がカチカチ鳴っている。窓を閉めてきます。

 いいから、いいから、おまえ。そんなこと放っておいて、こっちのベッドにおいで。

赤頭巾 何だか知らないけれど、あたし、怖い。おかしな変な感じがする。まあ、おばあちゃん、大きな目になったのね。

 頼むからさあ、目のことは放っといておくれ。これでもちゃんと物が見えるんだから。

赤頭巾 でも、その鼻が……。

 いいかい、おまえ。それは、このたそがれ時の見えにくい明かりのせいなんだよ。

赤頭巾 でも、なんて口なの。まるで犬の口みたい。

 おまえを食うのに都合いいのさ。そいつは請け合うぜ。

狼が赤頭巾を捕まえ、ベッドのカーテンが降りて二人が隠れる

赤頭巾 (カーテンの後ろで)助けて、助けて。ああ、誰か来て。殺されるわ。

 おまえはもう死んでいる。泣き叫んでも無駄さ。馬鹿な小娘め。さらばじゃ。

二羽の赤ムク鳥が、開いた窓から飛びこんでくる

鳥1 こっち、こっち、ついておいで。さあ、部屋の中に入ろうよ。

鳥2 うん、わかった。友達の赤頭巾がここにいるんだね。

鳥1 あの子はもう寝たから、ここにはいない。

○鳥1はカーテンのうしろに入る

鳥1 (戻ってきて)ああ、大変、なんてことだ。

鳥2 おい、どうしたんだ。

鳥1 狼がベッドにいる。そして、赤頭巾が、可哀相にすっかり死んでいる。

鳥たち ああ、大変、なんてことだ。なんと悲しい宿命だ。

猟師 (窓から中を覗き込みながら)おや、いったいどうしたんだ。門を通りかかったら、叫び声が聞こえた。

鳥たち ああ、あんたの来るのが遅すぎた。赤頭巾は死にました。惨い獣の狼が、あの子を食べています。

猟師 奴の惨たらしい饗宴は、この銃で終わらせてくれるわ。狙いを外すものか。

○狼がカーテンから首を出す。猟師は銃を撃ち、狼を殺す

猟師 狼の奴は死んだ。もう二度と動くことはあるまい。奴の運命は、他の狼のみせしめにしてくれる。邪悪な輩は、遅かれ早かれ、復讐を受けるもの。

○幕が降りる・・・

※1800年発表のもの。ここで初めて、赤ずきんを食べた狼を殺す「猟師」が登場している。しかし、赤ずきんは甦らない。

 それはそうと、狼は北斗神拳の使い手だったのか……(笑)



小さな赤ずきんちゃん2『グリム童話』 著:グリム兄弟 KHM26 ドイツ

 昔々、小さな可愛い女の子がいた。この子をひと目見れば誰でもこの子が好きになってしまうのだけれど、なかでもこの子のおばあさんは、孫が可愛くて可愛くてたまらなくて、何をあげたらよいのか分からないぐらいだった。

 あるとき、おばあさんはこの子に赤いビロードの可愛らしい頭巾をやった。それがとてもよく似あったものだから、それからというもの、みんなこの子を赤ずきんちゃんと呼んでいた。

 ある日のこと、お母さんが赤ずきんちゃんに言った。

「おいで、赤ずきんちゃん。ここに大きな上等のお菓子が一つと葡萄酒が一瓶あるからね。これを、おばあさんのところへ持っておいで。おばあさんは病気で具合が悪いから、これを食べたらきっと元気になるよ。

 さぁ、暑くならないうちに行っておいで。外へ行ったらお行儀よくしてるんですよ。道を走ったりしてはいけませんよ。そんなことをしたら、転んで瓶を割ってしまって、おばあさんにあげるものがなくなってしまいますからね。それから、おばあさんの部屋へ入ったら、おはようございますって言うのを忘れちゃいけませんよ。入ってすぐにそこいらじゅうをキョロキョロ見廻したりするんじゃありませんよ」

「大丈夫よ」と、赤ずきんちゃんはお母さんに言って、ちゃんと言われた通りにしますと約束をした。

 ところで、おばあさんは、村から半時間ほどの森の中に住んでいた。赤ずきんちゃんが森の中へ入っていくと、狼に出会った。けれども、赤ずきんちゃんは狼がどんなに悪い獣なのか知らなかったものだから、狼を見ても怖がらなかった。

「こんにちは、赤ずきんちゃん」と狼が言った。

「ありがとう、狼さん」

「こんなに早く、どこへ行くの、赤ずきんちゃん」

「おばあさんのところへ」

「エプロンの下に何を持ってるの」

「お菓子と葡萄酒よ。昨日焼いたの。これ、病気のおばあさんの体にいいのよ。精がつくんだから」 

「赤ずきんちゃん、おばあさんの家はどこ」

「森のずうっと奥の方、まだ十五分くらい先よ。大きな樫の木が三本立ってる下がおばあさんの家なの。下にはヘーゼルナッツの生垣があるのよ。知ってるでしょ」と赤ずきんちゃんが言った。狼は心の中で考えた。

「若くって柔かい肉、こいつは御馳走だぞ。婆ァよりよっぽと美味いだろう。ここはひとつ、うまく騙して、両方とも食っちまいたいもんだ」

 そこで、しばらくの間、赤ずきんと一緒に歩いてから言った。

「赤ずきんちゃん、ほら見てごらんよ。そこいらじゅうに綺麗な花がいっぱい咲いてるよ。どうして周りを見ないの。小鳥があんなにいい声で鳴いてるのがちっとも聞えないのかなあ。まるで学校へでも行くみたいに、一心不乱に歩いているんだね。森はこんなに面白いところなのに」

 赤ずきんちゃんは目を上げて、お日さまの光が木の間を洩れてあっちこっちと踊りをおどったり、どこもかしこも綺麗な花がいっぱい咲いているのを見た。

「おばあさんに、活き活きした花束をおみやげに持って行ってあげたら、きっと喜ぶわ。まだ時間は早いんだもの、大丈夫。遅くなったりなんかしないわ」

 そう思って、横道に入り込んで、色々な花を探し始めた。花を一本 手折ると、もっと奥へ行ったら、もっときれいな花があるかもしれないと思って、花から花を追いかけて、だんだん森の奥へ入りこんでしまった。

 ところが、狼の方はそのまま真っ直ぐにおばあさんの家へ行って、トントンと戸を叩いた。

「どなただね」

「赤ずきんちゃんよ。お菓子と葡萄酒を持って来たの。開けてちょうだい」

「取っ手を押せばいいよ」と、おばあさんが大声で言った。「すっかり弱ってしまって、起きられないんだよ」

 狼は取っ手を押すと戸が開いたので、一言も言わずに一直線におばあさんの寝床へ行って、おばあさんを一呑みにしてしまった。それから、おばあさんの服を着て、おばあさんのナイトキャップをかぶって、おばあさんの寝床に潜り込んで、カーテンを引いておいた。

 赤ずきんちゃんは、花をさがして駆けずりまわって、持ちきれないほど沢山とると、やっと用事を思い出して、おばあさんのところへ向かって行った。着いてみると戸が開けっ放しになっているので、へんだなぁと思って、部屋へ入ってみると、どうも中の様子が変わっているような気がしたので、首をかしげた。

「まぁ、どうしたのかな。今日はなんだか気味が悪い。いつもなら、おばあさんのところはとても気持ちがいいんだけどなあ」

 大きな声で「おはようございます」と言ったけれど、返事もない。

 そこで、寝床の方へ行ってカーテンを開けてみた。寝床にはおばあさんが寝ていて、ナイトキャップを深くかぶって、なんだかヘンテコな格好をしていた。

「あれれ、おばあさんの耳、おっそろしく大きいわ」

「こうでなきゃ、お前の言うことがよく聞こえないからさ」

「あれれ、おばあさんの眼、ムチャクチャ大きいわ」

「こうでなきゃ、お前がよく見えないからさ」

「あれれ、おばあさんの手、やったら大きいわ」

「こうでなきゃ、お前がよく掴めないからさ」

「だけど、おばあさんの口、超大きいわ。私、ビックリしちゃった」

「こうでなきゃ、お前がうまく食べられないからさ!」

 狼はこう言うと、いきなり寝床から飛び掛って、哀れな赤ずきんちゃんを一呑みにしてしまった。

 狼は思う存分食べてしまうと、また寝床に寝転んで、とてつもなく大きないびきをかきだした。

 そのとき、ちょうど知り合いの猟師が家の側を通りかかっていた。

「ばあさまときたら、すごいいびきをかいているな。どうかしたんじゃないか、ちょっと見てやらねばなるまい」

 そこで、家へ入って寝床の側へ行ってみると、寝床の中で寝ているのは狼だった。

「コイツ、長いこと探していたが、こんなとこに寝ていやがる。こんちくしょうめ!」

 猟師は言って、鉄砲で狙いをつけたけれど、待てよ、狼のヤツ、ばあさまを食ったのかもしれない。ひょっとしたらまだ助かるかもしれないぞと思いついたので、鉄砲を撃つのをやめにして、寝ている狼のお腹をハサミでじょきじょき切り始めた。二切り、三切りすると、赤い頭巾がちらっと見えた。また二切り、三切りじょきじょきやると、女の子がとび出して大きな声で言った。

「ああ、ビックリした。狼のお腹の中って真っ暗なのね」

 次に おばあさんが出て来た。生きてはいたけれど、息も絶え絶えだった。

 それから赤ずきんちゃんは、大急ぎで大きな石をいくつも拾って来て、狼のお腹にぎゅうぎゅう詰めた。やがて狼は眼をさまして、一足飛びに逃げ出そうとしたけれども、お腹の石がとても重くて、たちまちへたばって、死んでしまった。

 これを見て、三人とも安心して大喜びした。猟師は狼の毛皮を剥いで持って帰った。おばあさんは、赤ずきんちゃんの持って来た上等のお菓子を食べたり、葡萄酒を飲んだりして、元気をとりもどした。

 赤ずきんちゃんは思った。

「この先一生、お母さんの言いつけに背いて一人で森の中の脇道を行ったりなんてしないわ」

 

 ところで、こんな後日談もある。

 ある時、赤ずきんちゃんがおばあさんにお菓子を持っていくと、途中で前とは別の狼が話しかけてきて、やっぱり赤ずきんを脇道に誘い込もうとした。けれども、赤ずきんは狼の言うことに惑わされないで、寄り道をせずに真っ直ぐおばあさんの家に行った。

「今、途中で狼に会ったわ。ごきげんようって挨拶したんだけど、ヘンタイの目で私をじろじろ見たわ。

 でも、もしあれが往来じゃなく、誰もいない場所だったなら、狼は私を食べちゃっていたでしょうね」

「おいで!」と、おばあさんが言った。「戸に鍵をかけて、狼が入れないようにしてやろう」

 まもなく狼がやって来て、トントンと戸を叩いて「開けてちょうだい、おばあさん。私、赤ずきんよ。おばあさんにお菓子を持ってきたのよ」と呼びたてた。けれども二人はウンともスンとも言わず、戸も開けなかった。ごましお頭の狼は二、三べん、忍び足で家の周りをぐるぐる歩いて、とうとう屋根の上に飛び上がった。夕方まで待っていて、赤ずきんちゃんが家に帰るために出てきたら、後をつけて暗がりで食べてしまうつもりだった。けれど、おばあさんはこのたくらみを見抜いていた。

「赤ずきんや、手桶を持ってきておくれ。昨日ね、おばあさんはソーセージをこしらえたのさ。お前、ソーセージを茹でた水を、この風呂桶の中に入れておくれな」

 赤ずきんちゃんは何度も何度もその水を運んで、とうとう、大きな大きな風呂桶をいっぱいにした。すると、ソーセージのいい香りが、狼の鼻の穴へぷんぷんと入ってきた。

 狼は鼻をぴくぴくさせて、下を覗いてみた。そのうちに、首をあんまり伸ばしたのでバランスを失って、ずるずる屋根を滑っていって、大きな風呂桶の中にどぼんと落ちて、溺れ死んでしまった。

 赤ずきんは、いそいそと家に帰っていった。勿論、誰にもどうにもされたりなんかしなかった。



参考文献
『完訳グリム童話集(全五巻)』 J.グリム+W.グリム著、金田鬼一 訳 岩波文庫 1979.
『完訳グリム童話(全三巻)』 グリム兄弟著、関 敬吾・川端 豊彦訳 角川文庫

※1812年。現在『赤ずきん』というと誰もが思い浮かべるのが、このグリム版。
 かつては、ペロー版よりグリム版の方がより民話の原形を残しているとされ、様々な心理学的解釈がされたが、現実にはグリムにこの話を物語ったのがフランス系の婦人だったこと、ドイツの民間にはこの類話が見られないこと、”赤いずきん”は伝承には無いもので本来ペローの創作であるらしいことから、グリム版はペロー版を基にしている、というのが現在の認識である。
 ペローは民話の艶話的側面を強調し、若い娘たちの性に向けての警告としたが、グリムは性的な部分を極力廃し、もっと小さな子供たちに向けて「知らないおじちゃんに気を許しちゃいけませんよ」と戒める教育話に仕立てている。



おばあちゃんの話フランス

 昔、一人の女がパンを焼いて、娘に言った。

「さあ、このあつあつのパンとミルクを一びん、ばあちゃんとこへ届けておくれ」

 そこで女の子は出かけ、四つ角のところで狼憑きブズーに出会った。狼憑きは女の子に言った。

「おい、どこ行くんだい?」

「あつあつのパンとミルクを一びん届けに、ばあちゃんとこへ」

「どっちの道を行くんだい?」と、狼憑きは訊いた。「縫い針の道かい? それとも留め針ピンの道かい?」

「縫い針の道よ」と、女の子は答えた。

「そうかい。じゃあ、俺は留め針の道にしよう」

 女の子は道すがら縫い針を集めて遊んでいたが、その間に狼憑きは ばあちゃんの家に着いて、ばあちゃんを殺した。そして肉を戸棚にしまい、血はびんに入れて棚の上に置いて、ばあちゃんの服を着てベッドに入った。そのうちに、女の子がたどり着いて戸を叩いた。

「押したら開くよ」と狼憑きは言った。「濡れた藁一本で、閉じてあるだけだから」

「こんにちは、ばあちゃん。あつあつのパンとミルクを一びん、持ってきたよ」

「戸棚にしまっておくれ。中に肉が入っているからそれをお食べなさい、それから棚の上のワインもお飲み」

 女の子が飲んだり食べたりし終わると、側にいた小猫が言った。

「うえーっ、自分のばあちゃんの肉を食べて、血を飲んじまったよ。なんて恐ろしい娘っ子だ!」

「さあ、お前、服を脱いで」と、狼憑きが言った。「ここに来て一緒にベッドにお入り」

「脱いだスカーフは、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

「脱いだエプロンは、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

「脱いだシャツは、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

「脱いだスカートは、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

「脱いだペチコートは、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

「脱いだ長靴下は、どこへ置けばいいの?」

「暖炉の火にくべておしまい。もうお前にはいらないんだから」

 しまいに女の子は裸になって、狼憑きと同じベッドに入った。

「あれー、ばあちゃんって、毛深いんだねえ」

「この方があったかいんだよ、お前」

「あれー、ばあちゃんの爪って、大きいんだねえ」

「この方が体を掻くのにいいんだよ、お前」

「あれー、ばあちゃんの肩って、大きいんだねえ」

「この方が薪を運ぶのにいいんだよ、お前」

「あれー、ばあちゃんの耳って、大きいんだねえ」

「この方がお前の声がよく聞こえるんだよ」

「あれー、ばあちゃんの鼻の穴って、大きいんだねえ」

「この方が嗅ぎタバコを嗅ぐのにいいんだよ、お前」

「あれー、ばあちゃんの口って、大きいんだねえ」

「この方がお前を食べるのにいいんだよ」

 すると女の子は言った。

「あれー、ばあちゃん、あたしおしっこがしたくなった。外へ行かせておくれよ」

「そんなの、ベッドの中でしておしまい」

「イヤだよ、ばあちゃん。外に行きたいよ」

「わかった。だけど、さっさとするんだよ」

 狼憑きは女の子が逃げないように足に毛糸をくくりつけると、外へ出してやった。女の子は外へ出ると、毛糸の端を庭のスモモの木に結んだ。狼憑きはあんまり時間がかかるのでイライラしてきて、「おまえ、大きい方なのかい。たくさん出しているのかい?」と聞いた。返事がないのに気づいた狼憑きはあわててベッドを飛び出したが、女の子はもう逃げてしまっていた。そこで狼憑きはあとを追いかけたが、すんでのところで女の子は自分の家に逃げ込んで、バタンと戸を閉めた。



参考文献
『赤ずきんちゃんはなぜ狼と寝たのか』 キャサリン・オレンスティーン著 中谷和夫訳 河出書房新社

※1885年頃、フランス南部のニエーブルで採録されたもの。ペロー、グリムの影響を受けていない民間に伝承される物語とされる。フランスには数十種の類話があるという。同様の類話はイタリアでも採取されており、そちらでは女の子は川を渡り門を抜けておばあさんの家に行く。その途中で人食いの山姥に会う。山姥は先回りしておばあさんを殺し、その耳をフライに、歯をシチューにする。女の子が誘われるままにベッドに入ると、山姥は大女で毛むくじゃらで、しかも尻尾があった・・・。

 この類話は中国、台湾、朝鮮半島、日本にも多数存在し、私たちには馴染みが深いものである。次に紹介している「姉弟と山姥」など、内容的にかなり近い。

 中国〜日本の類似話群に関しては、主に[狼ばあさん]の方で紹介する。



姉弟と山姥日本 福島県

 ざっと昔、花子と次郎という姉弟があった。ある日のこと、両親が二人に言った。

「柿の実がなったから、一山さ越えた里にある婆様さ家へ持って行って来い」

 それで、二人は半分ずつ柿の実を背負って、婆様の家に出かけていった。

 二人が途中の山道に差し掛かると、向こうからおしゃれな婆様がやってきた。おしゃれ婆様が訊いた。

「花子と次郎さ、婆様の家へ柿持って行くのか」

「うん、そうだ」と二人が答えると、おしゃれ婆様は

「俺がお前たちの婆様だっぺ」と言って、からからと笑った。そうして、「俺に柿の実をくれろ」と言うので、

「うちの婆様さ、頬のところにひずみ(ほくろ)があるのに」と言うと、おしゃれ婆様は

「今 米を搗いてたから、俺の顔さ米の粉がついているから、顔を洗ってくる」と言って、どこかに行ってまた戻ってきた。今度は頬のところにちゃんとひずみがついている。二人は本当の婆様だと思ってしまった。おしゃれ婆様は、「さあ、俺の家さ行こう」と言って、二人を連れて行ったが、道中、ずっと柿の実をカリカリ齧っているので、花子と次郎は(婆様、今日はどうしたんだろう)と思っていた。

 順々道を歩いていると、いよいよ婆様の家に着いた。「今夜はよく肥えた方と一緒に寝よう」と婆様が言うので、二人は自分が一緒に寝たくて「俺だ、俺だ」と先を争った。婆様は花子を選んで、抱いて寝た。

 夜中ごろ、次郎が寝ていると、婆様の寝ている方から、ぷり、ぷり、ぷちゃ、ぷちゃ、と何かをしゃぶっているような音がする。柿の実を食べているのかと思って、「俺にもくれろ」と言うと、どすんという音が枕元にした。見ると、花子の腕を婆様が投げつけたのだった。花子は食われたのだ、婆様は鬼婆様だったと次郎は知った。逃げようと思って、

「婆様、俺さ小便に行く」と言った。婆様は

「外には恐ろしいものが沢山いるからな」と言って、次郎に鎖をつけた。ところが、便所に行く途中で鎖が棒に絡まってぷつっと切れたので、これ幸いと逃げ出して、うんと逃げて木の上に登っていた。すると、婆様が追いかけてきた。

「次郎じゃないか。食っちまおう」

 次郎は着物を木の枝に引っ掛けて、自分は裸になって逃げて行った。婆様は次郎が木の上ですくんで動けないのだと思って、仲間と一緒に食べようと思って、仲間の鬼を沢山呼んできた。ところが、木に登ってみると次郎はいないで着物だけだったので、「この嘘つきめ」と仲間の鬼に殺されてしまった。次郎はそれでとうとう助かった。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※別説では、食われるのは弟の方で、姉が逃げ出す。(こちらのほうが原型に近いだろう。)逃げた姉は木に登り、翌朝、通りがかった百姓に助けられる。ニセモノの婆の正体は、むじなであったという。



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