太陽を奪う者〜日蝕や月蝕は、獣や怪物がそれらを呑んだり隠したり盗んだりしたために起こるものだ、という考えの話群。

>>日の女神を救え

天駆ける鹿シベリア エヴェンキ族

 大地が出来たばかりで小さかった頃、地上に住んでいたのは巨人達だった。その頃は夜がなかったが、ある秋の日、一頭の雄のヘラジカが雌のヘラジカを従え、太陽をくわえて天空へ駆けだした。

 たちまち大地は漆黒に包まれ、困った巨人達の中から、暴れ者で恐いもの知らずのマンギという若者が弓矢を掴み、犬を連れてヘラジカを追い始めた。雄のヘラジカは逃げ切れないとみると、太陽を雌に渡して自らは囮となり、雌を北の天に開く天上に通じる穴に逃がそうとした。雄のヘラジカを仕留めたマンギはそれを悟り、あと一息という雌を弓矢で殺した。ヘラジカの口から落ちた太陽のおかげで地上は再び明るくなった。

 このとき狩りに加わったものは二度と地上には戻らず、星となった。そうして今でも北の天の穴を目指して、狩りをし、走り続けている。以後、昼夜の別が現われ、鹿が太陽を盗むと夜になり、マンギが取り戻すと昼になるのだ。



参考文献
『シベリア民話への旅』 斎藤君子著 平凡社

※北の天の穴とは北極星、星になった狩人達とは大熊座のこと。
 エヴェンキ族に限らずシベリアの狩猟民の間には、太陽は巨大な鹿の姿をしていて、一日で天体を一回りするという伝承がある。
 エヴェンキ族の概念では、世界は善霊の住む上の国、人間の住む中の国、悪霊と死者の住む下の国の三層からなり、三つの国は穴を通じて行き来できるのだという。中の国から上の国へ通じる穴は北極星で、そこへ至る道を知るのはワタリガラスだけだともいう。
 別の伝承によれば、大地が出来たばかりの頃、天神ホヴォキは地上に池や湖を一跨ぎして狩りが出来るような巨人を住まわせていた。狩りの名人マンギは妹を苛めたために両親に叱られるのを嫌って天に昇り、天空でヘラジカを追っているという。彼の残したそりの跡が天の川で、大熊座とオリオン座はマンギと弓矢とヘラジカの姿であると。



手毬をつく女シベリア チュクチャ族

 昔、独りぼっちで暮らしている女がおり、仕事もせずに毎日手毬で遊んでいた。ある日新しい手毬を作ろうと思い立った女は空に手を伸ばし、太陽と月を取って縫い合わせ、中に星を詰めた。こうして、片面が月、片面が太陽、中で星がきらめくすばらしい鞠が出来あがった。

 太陽も月も星も一度に空から消えてしまったので、辺りは暗黒に包まれた。困った人々の中から勇敢な若者が太陽と月を取り戻す旅に出、暗闇の中を松明をかざし、犬そりを走らせて女の家に辿り着いた。そしてナイフで女を脅したので、女は泣く泣く手毬をほどいて太陽と月を大空に投げ返した。

 こうしてこの世は再び光明を取り戻した。



参考文献
『シベリア民話への旅』 斎藤君子著 平凡社

※パレオアジア諸民族やインディアンの神話にも太陽は手毬として登場する。
 アジアエスキモーの女達は握りこぶし大の手毬を作って寝間の梁に吊るし、魔除けのお守りとする。この手毬は普段は屋外に持ち出すことを禁じられ、病人が出ればその体をこの手毬で軽く擦った。エスキモーの老婆は死期を悟ると手毬を作って身内の娘にお守りとして贈った。



コースチンの息子ロシア ウクライナ

 昔、どこかの国であった話だ。

 王様が竜とケンカした。竜は腹いせに太陽と月と星々を盗んで地下に隠したので、人々は大いに困った。

 ところで、この国にはコースチンという男がいて、彼の三人の息子は そろって勇士だった。王様は家来を遣わして末の息子を呼んだ。

「あの竜のもとから、奪われた一切を取り戻してくれないかね」「いえ、私には出来かねます。中の兄さんに頼んでください」

 そこで中の息子が召された。

「あの竜のもとから、奪われた一切を取り戻してくれないかね」「いいえ、私にも出来かねます。上の兄さんなら出来るでしょう」

 とうとう上の息子が呼び寄せられた。

「あの竜のもとから、奪われた一切を取り戻してくれないかね」「いいでしょう。ただ、私たちには三頭の駿馬が必要です。三つの馬の群れを追い立ててください」

 三つの馬の群れが追い立てられた。馬に長男が手を置くや、どの馬も どう、と横倒しになった。後に残ったのは三本足に翼が一つ、びっこをひいた痩せ馬一頭。長男が手を置くと、そいつは膝を落とすだけだった。

「うむ、こやつは下の弟に。さて、また三つの馬の群れを追ってくれ」

 そこでまた三つの群れが追い立てられた。長男は片っ端から投げ倒し、最後に残った二本足に翼が二つの馬を選び出した。

「こやつは中の弟に。さて、また三つの馬の群れを追ってくれ」

 そこでまた三つの群れが追い立てられた。長男はよくよく選り分けて、一本足に四つの翼の、一見して一番ダメな馬を選び取った。

 選定が終わると、馬たちは長男に頼んで言った。

「コースチンの息子さん、私たちを三日間広い野に放して、新鮮な草を食べさせておくれ」

 長男は馬たちの望みをかなえてやった。三日経つと、馬たちは丸々肥えた素敵な駿馬になった。

 三兄弟は馬にまたがり、丘に登って てんでにハッシと弓を射た。放った矢が探し物を見つけてくれるまじないだ。

 三兄弟は故郷を後にして馬を走らせ、竜の館に辿り着いた。館の前には末の弟の放った矢が落ちている。中に入ると酒とご馳走があったので飲み食いして一息入れた。夜になって末の弟が見張りに立ったが、魔法の手袋と編み鞭を置いて、「これに汗が滴り血が流れたら、このアイテム二つと僕の馬を解き放って、兄さんたちも加勢に来てください」と頼んだ。この手袋と鞭は主が無くともひとりでに敵を打ち攻撃する業物なのだ。

 末の弟は橋の下に座っていた。夜中になると、大地をドロドロと轟かせて、馬に乗った三つ頭の竜が近づいてきた。竜の三兄弟の末の弟だ。橋の上に差し掛かると竜の馬はピタリと立ち止まった。

「畜生め、どうして先に進まないんだ」「橋の下にコースチンの息子が座っているんですもの、どうして進めるでしょうか」

 末の弟は隠れ場所から飛び出し、三つ頭の竜と戦った。楽勝で倒してしまい、証拠に竜の舌を切り取ってポケットに入れた。館に戻ってみると、兄二人は騒ぎに気づきもせずに眠りこけていた。

 三兄弟は再び旅立った。やがて、次の竜の館に辿り着いた。館の前には中の兄の放った矢が落ちている。中に入ると前より良い酒とご馳走があったので飲み食いした。夜になって、今度は次男が見張りにたつ番だったが、彼は嫌がった。代わりに末の弟が見張りに立ったが、今度も魔法の手袋と編み鞭を置いて、「これに汗が滴り血が流れたら、このアイテム二つと僕の馬を解き放って、兄さんたちも加勢に来てください」と頼んだ。

 末の弟は橋の下に座っていた。夜中になると、大地をドロドロと轟かせて、馬に乗った六つ頭の竜が近づいてきた。竜の三兄弟の次男だ。橋の上に差し掛かると、竜の馬は立ち止まった。

「畜生め、何故 止まる」「橋の下にコースチンの息子が座っているんですもの、どうして進めるでしょうか」

 末の弟は隠れ場所から飛び出し、六つ頭の竜と戦った。今度はなかなかの強敵で、手袋からはポタポタと汗が滴った。けれども兄二人はぐっすり眠り込んでいて気づかない。なんとか倒して竜の舌をポケットに入れて戻ると、末の弟は兄たちを起こして文句を言った。――倒せたから、まぁいいけど。

 三兄弟は再び旅立った。やがて、最後の竜の館に辿り着いた。上の兄の放った矢は、館を半ば崩して落ちていた。三人は中に入り、景気付けに飲んだり食べたりした。夜になって、やはり末の弟が見張りに立ったが、「今度は眠らないで、手袋から血が滴ったら すぐに加勢に来てください」と言い置いた。

 末の弟は橋の下に座っていた。夜中になると、大地をドロドロと轟かせて、馬に乗った十二の頭の竜が近づいてきた。竜の三兄弟の長男だ。橋の上に差し掛かると、竜の馬はハタと立ち止まった。

「畜生め、止まるんじゃない!」「橋の下にコースチンの息子が座っているんですもの、どうして進めるでしょうか」

 末の弟は隠れ場所から飛び出し、十二の頭の竜と戦った。手袋からは汗が滴り、見る間に血に変わった。けれども、兄たちはやはり眠っている……。厩では末の弟の馬が大暴れを始め、館がガラガラと崩れ始めた。そこで流石に兄たちは目を覚まし、手袋と鞭と馬を解き放つと、自分たちも馬に飛び乗って加勢に向かった。修羅場に着いてみると、手袋は唸り鞭は宙を斬り、馬は大暴れしている。三人揃うと兄弟は竜を打ちのめし、火あぶりにして、灰を風に飛ばした。そんなわけで、竜は跡形もなくなってしまった。

 それから、三兄弟は地下の国に行き、太陽と月と星と虹を取り戻して空に返した。そうして、家路を辿り始めた。

 ところが、半ばまで戻ったとき、末の弟がこう言った。

「手袋と鞭を忘れてきてしまったぞ。あんな業物が忌まわしい奴らの手に渡るのは残念だ」

 そこで末の弟はオオタカに姿を変え、今来た道を飛び戻った。ところが、竜の館に竜の女房と子供たちが残っていて、長男の竜の女房と三人の娘たちは三兄弟に復讐しようと相談していた。末の弟は子猫に変身して窓辺で可愛くじゃれた。娘たちは喜んで猫を中に入れようとしたが、竜の女房はとめて、二切れのパンを与えた。一切れには蜂蜜、もう一切れには毒が塗ってある。自分たちの眷属なら毒の方を食べるはず、というのだ。子猫は毒の方を食べてケロリとしていたので、女房も安心して中に入れた。

 女房は娘たちに復讐の手はずを指示した。上の娘にはこう言った。

「先回りしてベッドに姿をお変え。奴らはそこで一息入れたくなるだろう。お前の上に身を横たえたコースチンの息子は、血まみれになってあの世行きさ」

 中の娘にはこう言った。

「お前は道端の泉に姿を変えるがいい。奴らが一口含んだら、あっという間にお陀仏さ」

 下の娘にはこう言った。

「お前はリンゴの木におなり。その実をかじれば身の破滅さ」

 話を聞き終わると、子猫は手袋と鞭に さも面白そうにじゃれついて見せた。竜の子供たちは「お父さんを滅ぼした憎い奴のものだから、捨ててしまおう」と、子猫ごと外に放り出した。末の息子はオオタカの姿に返り、手袋と鞭を拾い上げると、飛んで じきに兄たちに追いついた。

 

 三兄弟が馬でどんどん進んでいると、帳に包まれた柔らかそうなベッドが現われた。くたくたの兄二人は争ってベッドに向かったが、末の弟はそれを追い越して、ベッドに一太刀浴びせた。竜の上の娘は血まみれになってあの世行きになった。また少し先に進むと、見事なリンゴの木があって、その熟れた実が地面に落ちている。今度も末の弟は木を斬りつけ、下の娘も血まみれで息絶えた。そこからさほど離れていない場所には素晴らしい泉があった。三兄弟は幾日も露さえ口に含んでいなかったので、兄二人はすぐに駆け寄ろうとした。末の弟は兄たちを追い越して泉に一太刀浴びせ、中の娘も血まみれで死んだ。

 老いた竜の女房は、娘たちが非業の死を遂げたと知ると、クワッと口を開けて三兄弟の後を追いはじめた。上あごは天まで届き、下あごは地に達し、炎で焼き尽くす勢いで、仇を追ってビュンビュン飛んできた。

 末の弟は地面に耳をつけてこれに気づき、三兄弟は早足で逃げ始めたが、もう遅い。たちまち追いつかれて、近くにあった鍛冶場に逃げ込んで扉にかんぬきをかけた。

「ええい、ここをお開け。さもないと鍛冶場もろともに ひと呑みだよ」

 竜の女房が言うと、鍛治工たちは答えた。

「扉を舐めてみやがれ、熱い奴をお見舞いするぜ」

 竜の女房は扉を舐め尽して、中に舌を伸ばしてきた。鍛治工たちは真っ赤に灼いたやっとこで それをはさみ、竜の体に鋤をつけて谷間を耕し起こさせた。海岸べりまで耕し終わると、竜の女房は言った。「一息入れさせておくれ。水をたっぷり飲みたいんだよ」

 海まで辿り着いた竜は水をガブガブ飲みに飲み、とうとう腹がはじけて死んでしまったとさ。



参考文献
『ロシアの民話〈I、II〉』 ヴィクトル・ガツァーク編、渡辺節子訳 恒文社

※本来末弟だけが活躍する話であったろうものを、ところどころ長男に花を持たせて立ててみたり、末弟が理由無く神か魔法使いのような存在になっていたり(オオタカになってひと飛び出来るなら、馬に乗って旅する必要なんてないじゃないか)、細かいところが混乱しているが、神話的観念が非常に端的に現れていて面白い話である。
 竜は、「呑み込む者〜冥界そのもの」として現われている。竜は太陽や月や星を呑み込み、"地下=冥界=己の腹の中"に隠す。竜の女房が三兄弟を呑もうとするのは、彼らが冥界に下って宝(太陽や月)を奪ったことを別の形で再表現しているに過ぎない。また、"呑みこむ者=竜=女神≒生命の果実、泉、ベッド≒死の眠りを与えるもの"であることも示されている。
 ところで、竜が馬に乗って現われるのは奇異な感じも受けるが、ゲルマンやスラヴ系統の民話では、馬は"冥界と現界を行き来できる"乗り物と考えられている。だから冥界に向かう三兄弟は特に優れた馬を選んで出発しなければならないし、竜も馬に乗っている。竜と末の弟が出会う場所が必ず「橋」なのも示唆的だ。つまり、そこはこの世とあの世の境であり、その関門として竜はいるのである。
 物語の結末、突然三兄弟の勇士は消えてしまい、ぽっと出の鍛治工たちが竜の女房を支配して大地を耕させる。物語としては破綻しているが、これは、火を制する金屋たちが"獄炎燃え盛る冥界=竜"の支配者であることを意味しているのだろうか。そういえば、北欧の冥王アルベリヒは小人の鍛治師であることになっている。雌竜が大地を耕すのは、"竜=火を吹く神牛・神馬=生贄の牛馬"であって、また、彼女が豊穣の地母神であることをも示しているのだろう。




SEO 母の日 誕生日プレゼント無料レンタルサーバー プロフ SEO