月に昇る〜人が自主的に月に昇る話
昔、一人のシャマンが女達の出産予定日を知るために月に登っていった。
シャマンが月に着くと、月は母親のところに行った。母親は
「シャマンはここへ来てはいけないことになっている。来てしまったからには帰すわけには行かない。おまえの夫にしなさい」
と命じ、月はシャマンと結婚した。
そんなわけで今でも月にはシャマンの貼り付いた姿が見える。
参考文献
『シベリア民話への旅』 斎藤君子著 平凡社
※女達は月の満ち欠けによって出産予定日を計算していた。
ヌナガサン族は月を大地の母のお姉さんと呼び、この女性が生命の糸を握っていると考えた。母なる月から太くて丈夫な糸を投げてもらった人は長生きするが、短い糸を与えられた人は寿命も短い。 ヌナガサンの女達は不幸な時ごとに月に祈る。難産のときにはトナカイを犠牲に捧げ、安産を祈願する。
ガディアとエギグの夫婦に三人娘があり、全員母親の名をとってエギグと言った。
ある日、一番上の娘が初潮を迎える。娘は高い木に登って歌う。
エギグ、エギグ、ホホホ!
いいえ、私は体なんか悪くないよ!
父さんのガディアの所へ行って
飾りを貰わなくちゃ
貝殻の首飾りや帯をさ、ホホホ!
父親は娘を娘宿に行かせ、美味しい食事や立派な飾り物を与える。翌日二番目の娘も同じことになる。三日目、末の娘も歌うが、母親は「お前には父さんは何もやらないだろう、お前には私たちは我慢ならないのだから」といい、追い出してしまう。
末娘が浜辺に行くと、芽吹いた椰子の実があったので地中に埋め、水をかけて言った。
「大きくなれ、椰子の木、大きくなれ! お日様の熱にも焼かれず、嵐にも倒されないで、大きくなれ、もっと大きくなれ!」
木は見る見る成長して天まで届き、娘はそれをよじ登って天に達した。そこには煮物小屋があり、盲目の老婆エニバララが椰子油からシロップをこしらえていた。エギグは喉が渇いていたので、そこにあった三十個の椰子の実から中身の酒を飲み、殻だけ戻した。老婆は最後の一個の時ついに気付き、召使にでも何でもなると哀願するエギグの腕を掴んで、死ななければならないぞ、と脅した。エギグは代わりに目を治してやると言い、「プー、プー! エニバララの目よ、プー、プー!」と吹いて彼女の目から蟻や蠅などあらゆる虫を飛び出させ、治した。
老婆は喜んだが、彼女の三人の息子達は人食いだったので、エギグを大きな貝殻の下に隠した。まず長兄で太陽のエクアンが帰り、そこらをかぎ回って「臭いぞ、誰かここに来たんだろう」と言うが、老婆は何も言わず目を閉じていたので、そのまま出ていった。次に雷のテバウが帰って「人間の匂いがする」と言うが、老婆は同じようにあしらう。末息子の、月のマラメンは「誰かここに来ましたね」と言い、老婆は目を開けて自分の目を見せ、訳を話す。マラメンは喜んで、エギグを妻にした。
それで今でも月の中には娘の姿が見える。
参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社
※太陽や月、雷や風は人食いであるというモチーフがはっきり現れている。
参考--> 「雨期の起こり」
昔、山奥に母親と娘二人が住んでいた。母親は家で豚の世話をして、姉妹二人は山の蕎麦畑で雀の番をした。蕎麦畑の向かいの竹林には人食いの化け物が住んでいて、姉妹が「オーオーシッ、オーオーシッ」と鳥追いの声をかけていると、老婆の姿に化けて姉妹の叫び声を真似た。姉妹は怖くなって家に駆け戻った。
翌日、母親が鳥追いに出かけると、化け物はまた老婆に化けて鳥追い声を真似た。母親が怒ると、化け物は泣いて言った。
「頭のシラミが痒くてたまらないけど、自分じゃどうにも出来ないんだよ。私が雀を追うから、シラミの取りっこをしないかね」
化け物は母親のシラミを二匹捕まえただけで、母親の頭を割って脳味噌を吸い、正体を現して大きな口で食べてしまった。それから再び老婆の姿になると、母親を迎えに来た姉妹に言った。
「母さんは山の向こうの粉ひき場にトウモロコシを挽きに行って帰れないから、今晩は私のところに泊まれと言っていたよ」
二人を引っ張って洞窟の家に連れて行くと、姉娘に火を起こすように言いつけて、妹には飴をやると言って寝に行かせた。しばらくすると奥からガリガリ、まるで野犬が死んだ豚を食べているみたいな音がするので、姉娘は言った。
「何を食べてるの。私にもちょっと分けて」
「妹はもう寝たよ。私はトウモロコシの粒を食べているんだ」と、化け物が答えた。
姉娘が戸の隙間から覗くと、ざんばら髪の化け物が妹の足をかじっている。姉娘は縫い針を戸に一本、壁に一本刺すと、
縫い針、縫い針、代わりに返事をしておくれ
と唱えて、すぐに家に向かって逃げ出した。
化け物は今度は姉娘を食おうと「どこにいるんだい」と呼ぶと、戸が「ここよ」と答えた。化け物が戸の所に行くと誰もいない。もう一度呼ぶと、壁が「ここよ」と返事をする。戸と壁を行ったり来たり、化け物は苛ついて、声のする方をバン、と叩いた。すると手に針が刺さって、ようやく騙されたことに気がついた。
化け物は追いかけた。姉娘はたちまち追いつかれそうになって、木犀の木に登って隠れた。この時、月が出て辺りを煌々と照らした。姉娘は顔を上げると訴えた。
「月のお婆さん、月のお婆さん。化け物に食べられてしまう、助けてください」
月は銀の鎖を垂らし、鎖を木犀の木に結ばせると、ゆっくりと、木もろとも姉娘を月宮に引き上げた。その影が地上に映ったので、化け物は大声で尋ねた。
「おおい、どこに行くんだ」
「月のお婆さんの所に遊びに行くの。後であなたも迎えに行くわ」
姉娘と月のお婆さんは、化け物のところに藁縄を下ろした。化け物が縄を伝って半分ほど登ってきたとき、姉娘は鎌で縄を切ったので、化け物はたちまち落ちて死んだ。
姉娘と一緒に木犀の木が月宮に昇ったので、今でも、十五夜の夜に月を見ると、木犀の木の影が見える。
参考文献
『世界の 太陽と月と星の民話』 日本民話の会、外国民話研究会編訳 三弥井書房 1997.
※「天道さん金の鎖」の類話。日本の沖永良部島に伝わる話では、人食いに追われて月に昇った姉妹のうち一人の影が月の中に見える、と語られている。人食いに片足を食いちぎられたため、片足で立っているのだそうだ。
月の中に木犀の木が生えている、というのは中国の伝承ではお馴染みのものである。
参考--> 「月の中の怪物」「太陽と月になった兄妹」[狼ばあさん]「呉剛と木犀の木」
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