鏡よ鏡

 「白雪姫」を「白雪姫」たらしめている最大のものが、妃が「鏡よ、鏡……世界で一番美しいのは誰?」と語りかける、禍々しくも印象的なシーンだろう。

 このシーンはどうやらグリムの創作のようで、他の民話には”質問に答える魔鏡”は見当たらない。しかし、このモチーフそのものがグリムの創作ではなく、井戸や湖といった水鏡に映して”器量比べ”をするモチーフは、特にアジア系の物語にはよく現れてくる。[その後のシンデレラ〜白い花嫁・黒い花嫁型]【蛇婿】では、醜い妹が幸せな結婚をした美しい姉を”器量比べ”に誘い、そのまま井戸の中に突き落とし、すり替わる。

 【三つの愛のオレンジ】で、黒い娘が水に映った美しいオレンジ娘を自分の姿と勘違いし、娘に笑われて怒り、彼女を殺してしまうシーンにも片鱗が見える。

七人の小人の秘密

 「白雪姫」に登場する小人は地底の宝を守り冶金やきんに長けるというドワーフたちだ。しかし「ミルシーナ」を見ると十二の月の精になっている。要は、森の中に住む複数の男たちである。

 この”複数の兄たちと一人の妹”という関係は、民話には繰り返し出てくる。たとえば、グリムの「六羽の白鳥」や「七羽のカラス」といった話がよく知られているだろう。

 この関係について、以前面白い説を読んだことがある。古代社会の通過儀礼の一環として、成人を迎える少年たちが村から隔離された森の奥の家に集まって集団生活をする慣習があったのだそうだ。つまり、”森の中の兄弟たち”は血縁上の兄弟ではなく、それら集団生活をしている少年たちであった、というのだ。”一人の妹”も当然血縁上の妹ではなく、彼ら全員に平等に所有される少女だ、と。そう考えると、この上もなく幸せだったという白雪姫やミルシーナの森での楽しい暮らしがなんとも淫靡なものに思えてきてしまう。「ミルシーナ」で、十二の月たちが彼女にこぞってドレスやアクセサリーを贈り、ミルシーナが目覚めたとき、王が「今は私がそなたの兄だ」と言う点に、あるいはそれが示唆されているのかもしれない。

 勿論 説はそれだけではなく、森の中に隠れ住む先住民族説などもある。

死の果実

 白雪姫はりんごをかじって死んでしまう。

 死者さえ甦らせる「生命の水」の逆位相として、「死の水」が存在する。これに触れればたちまち生ある者は死んでしまう。

 同じように、毒りんご――死の果実は、生命の果実――黄金のりんごの逆位相であるように思える。

 

 ――いや、実はひっくり返ってはいないのかもしれない。

 沖永良部島の「灰坊」では、主人公は禁じられていた桑の実を食べて即死してしまう。生命の果実とは、元々 生ある人間が食べれば死んでしまうものなのではないだろうか。黄金のりんごを女神より授かる男――女神の夫に選ばれた英雄たちは、いずれも夭折してしまう。女神が彼を自分の国(冥界)に連れ去るからである。

死に針

 ”白雪姫”を死に至らしめるのは毒入り食べ物だけではなく、毒入りの装身具や針であることがある。

 民話には、自由に人に命を与えたり殺してしまうことのできるアイテムが登場する。「命の水、死の水」もそうだが、他に「生き鞭、死に鞭」、そして「死に針」がある。「金の履物」では、継子は尋ねてきた継母に針で刺されて死に、ガラスの棺に収められる。その死体は腐ることがなく、後に指に刺さったままだった針を抜くと甦った。

 死に針は、それを刺された者は即死してしまうアイテムで、本来は「もの言う馬」にあるように毒を塗った針だったのかもしれないが、いつしか「それが刺されている間はその者は死んでいて、しかし抜くと甦る」という、ひどくお手軽なものになってしまったようだ。【三つの愛のオレンジ】でオレンジ娘を鳩に変えてしまう魔法のピンもそれだろう。

 死に針で死に、後に甦るといえば、【眠り姫】が最も有名だろう。彼女は糸紡ぎのつむで指を刺して眠りにつく。この場合、死に針には性的な意味がこめられていると解釈されるのが主流である。死に針の話題は[眠り姫のあれこれ]の「死に針と眠りの棘」でも語る。

棺の中から

 多くの再生復活の物語が植物や動物への魂の転生を通してそれを表しているのに対し、「白雪姫」は非常に直接的に、棺桶に収められた死体が目覚める、という手法を取っている。ガラスや金の棺を使っているおかげで禍々しさは回避しているが、同様に棺より復活する他の民話は大抵 禍々しくて恐ろしい。夜に棺(墓)の番をしなくてはならなかったり、亡霊をずっと抱きしめていなければならなかったり……。

 ところで、日本の継子譚である「お月お星(お銀小銀、おりん子・こりん子)」を「白雪姫」と同系の話とする説がある。継子であるお月は石の櫃に入れられ生き埋めにされる。継母の実子のお星はこれを掘りかえし、ふたを開けると、姉は既に目が潰れている。抱え起こして涙をこぼしたところが、お月は息を吹き返す。この石の櫃を棺と考えれば、なるほど確かに、継母によって一度殺された継子が、それを愛する者によって甦るわけだ。ただ、お星はお月の夫にはなれない。「白雪姫」でいえば、小人たちが白雪姫を蘇生させただけで、王子が出てこないようなものである。

 日本の継子譚には他にも箱に入れられて生き埋めにされる話があったと思う。埋められるのは女の子とは限らず、男の子の場合も多い。

王子は死体愛好者か?

 「白雪姫」のパロディでよく見かけるのが、「死んでる白雪姫にキスしようとするなんて、王子は死体愛好者の変態なんじゃないか?」という突っ込みである。これは………うーん…………そうなのかもしれない。(苦笑)

 しかし、この辺のストーリーは、本来”豊穣の女神の顕現〜冬枯れの大地・植物の再生”または”娘が死から再生することにより、一人前の大人に生まれ変わる”というテーマを表すのが目的であって、王子が死体を気に入って運んで行ってしまうのはそのストーリーを完成させるために起きたほんの少しのほころびに過ぎない。ので、あまり突っ込むのもどうかと思うが……。(笑) この件に関しては[眠り姫のあれこれ]の「結婚の証」で詳述する。

主な参考文献

『魔法昔話の起源』 ウラジミール・プロップ著、斎藤君子訳 せりか書房

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