金の生る木

 ここには、

「主人公が不思議な獣の働きで富を得るが、妬む者に獣が殺される。しかし獣の死骸から木が生えて再び富をもたらす」

という話を並べてみた。日本の「花咲か爺」や「雁とり爺」、韓国や中国の【狗耕田】もこの系統に入る。日本、朝鮮半島、中国、東南アジアに見られるものである。また、これらの地域や、中東から西欧のシンデレラ系の話にこのモチーフが混入しており、殺された〜死んだ母親(その化身である牛、魚)の墓や死骸から木が生え、黄金の実が生っただとか、揺すると金銀の衣装が降ったなどと語られることがある。他にも、【三つの愛のオレンジ】や【蛇婿〜水乞い結婚型】のような、殺された主人公自身が動物、植物、道具と殺されるたびに生まれ変わり、最後に幸せを取り戻す話群も、この系統に属すると考えていいだろう。

 獣は犬または猫だと語られることが多いが、固定しているわけではなく、他にも亀、狐、ハクビシンなどの場合がある。獣が主人公に富をもたらす働きには、

  1. 狩をして多量に獲物を獲る
  2. 田畑をモリモリ耕す、耕すかどうか賭けをする
  3. 地面の中から金銀を掘り出す
  4. 歌ったり喋ったりするので見世物になる、喋るかどうか賭けをする
  5. 糞の代わりに黄金をまる

といったものがある。また、死骸から生えた木が主人公にもたらす富には、

  1. 揺すったり叩いたりすると金銀財宝が降る。(a.金銀財宝が果実として実る b.天界の金蔵を突き破ったので)
  2. 黄金の果実(蜜柑)が実る。(蜜柑を新年の神事で供える由来)
  3. 木が主人公だけに従い、黄金の果実(梨)が舞って見世物になる(木が主人公だけに従い、木や黄金の果実を権力者に献上して認められる)

などといったものがある。木が生えて富をもたらした時点でスパッと終わるパターンと、更に「木が妬む者に倒されるが、その木から作った道具が富を生み、その道具も壊されるが、その破片から作った道具がまた富を生み、その道具が燃やされるが、その灰の中から……」と延々続いていくパターンがある。

 

ペナンペ・パナンペ日本 北海道 アイヌ族

 ある日、ペナンペが鮭捕りをしていると、一羽のカラスが川上から飛んできて木に止まり、

鮭汁を食べたいな、鮭汁を食べたいな

と鳴いた。ペナンペは捕った中でも一番大きな鮭を一本、水で綺麗に洗って与え、「お前にも父母がいるのだろう。持って行って食べさせなさい」と言った。カラスは喜んで鮭をくわえて飛んでいった。

 次の日、ペナンペがまた鮭を捕っていると、見たことのない美しい娘が来て、「さぁ、私に付いてきて」と言うので付いていくと、何もなかったはずのところに板張りの家があり、囲炉裏端に老夫婦が座っていて、まな板の上には昨日カラスに与えた鮭が置いてある。ペナンペが驚いて家の中を見ると、カラスの模様の漆椀や宝物が沢山あった。老人がゆっくりと口を開いて言った。

「私はカラスの神の中でも最高位の者だが、今では年老いて自分のエサもとれずに一人娘に養われているのです。昨日娘があなたに『鮭汁が食べたい』と言うと、一番いい鮭を下さった。本当にありがとう。お礼に小犬を一匹差し上げますから連れて帰るといい。帰る途中で小犬が倒木などを越えられないときは、この団子を一つ半 小犬に食べさせ、残りの半分はあなたが食べなさい」

 ペナンペは小犬と袋いっぱいの団子を貰い、家に帰った。途中で小犬が倒木を越えられずにいると、袋から団子を出して一つ半食べさせ、残り半分を自分が食べながら ようやく帰り着いた。

 その夜、辺りがようやく寝静まった頃、小犬がパタパタパタと家中走り回ってはポトンポトン何かを落としているような音が聞こえ、それが朝まで続いた。明るくなってから見ると、それは神の小判で、家中が小判で埋もれていた。ペナンペは大金持ちになり、なに不自由なく暮らせるようになった。

 さて、川下に住むパナンペがやってきて、「同じ貧乏人だったのに、これはどうしたことだ」と言った。ペナンペは「まぁ上がって何か食え、話してやるから」と言ったが、パナンペは「先に噂を聞いて知っているさ」と言い、戸口に小便を引っ掛けて帰っていった。

 それから、パナンペはペナンペの真似をしていつもペナンペの行くところに鮭捕りに行った。するとカラスが飛んできて

鮭汁を食べたいな、鮭汁を食べたいな

と鳴いた。パナンペは捕った中でも一番小さくて卵も持っていない痩せた鮭を、わざわざ砂まみれにしてから投げ与えた。カラスは厭そうにくわえて飛んでいった。

 翌日、同じ場所で待っていると、美しい娘が来て「さぁ、私と来て」と言う。付いていくと板張りの家があり、囲炉裏端に老夫婦が座っていて、まな板の上には痩せて砂だらけの小さな鮭が載せてあった。

「私はカラスの神の中でも最高位の者だが、今では年老いて自分のエサもとれずに一人娘に養われているのです。昨日娘があなたに『鮭汁が食べたい』と言うと、こんな鮭を下さった。お礼に小犬を一匹差し上げますから連れて帰るといい。帰る途中で小犬が倒木などを越えられないときは、この団子を一つ半 小犬に食べさせ、残りの半分はあなたが食べなさい」

 パナンペは喜んで小犬を連れて帰ったが、いくらも行かないうちに小犬は倒木を越えられずにウロウロしている。パナンペは戻ってきて小犬をぶん殴り、団子の半分を小犬の口に押し込んで、自分が一個半食べながら帰った。

 夜になって皆が寝静まると、小犬が家中を走り回りながら何かをポトポト落とす音が聞こえた。それを聞いたパナンペはすっかり嬉しくなり、早く朝になればいいなぁと心待ちにしていた。

 朝になって、「神の小判がザクザクだ!」とパナンペが裸で飛び起きると、家の中は犬の糞で埋もれていた。パナンペは糞まみれになって、「動物に食べ物を与えるときには美味しいところを綺麗に洗ってやるものだった」と後悔しながら死んでしまった。

 

 別説ではこうなる。

 パナンペが川で漁をしていると、川岸に妊娠した雌犬がいる。獲れた鮭から最良のものを投げ与えると、再び現われた雌犬によって犬の国に招かれる。雌犬は王の娘であり、お礼として王の孫である金の小犬と銀の小犬のどちらかを選べと言われ、銀の小犬を選んで授かる。

 小犬を大事に連れ帰ると、その晩ずっと何かをパタパタと落としながら家中を走り回っている様子である。朝になると小犬の姿はなく、家中に黄金が落ちていた。

 ペナンペも真似するが、砂の付いた最少の鮭を雌犬に投げ与え、授かった金の小犬を乱暴に連れ帰る。朝になると家中に糞が落ちていた。いくら掃除してもなくならず、ついにパナンペ夫婦は臭気のため死ぬ。



参考文献
『炎の馬 アイヌ民話集』 萱野茂著 すずさわ書房

※ペナンペ・パナンペとは川上の人・川下の人の意。
 この話では、犬が殺されて死骸から木が生えるモチーフがない。

 「黄金を生む(ひり出す)獣」のモチーフ自体は珍しいものではない。たとえば「ロバの皮」にもある。日本では笑話化してしまい、吉四六とんち話などで、予め馬に小判を食べさせておいて黄金を生む馬だと人に売りつける……などと語られもしている。

参考--> 「ひょっとこのはじまり」「竜宮の白犬



竜宮の黒猫日本  長崎県 島原半島

 昔々、姉と妹の二人があって、姉は金持ちの家に嫁入りし、妹は山番の妻になった。妹は毎日山から薪を取ってきて町へ売りに出たが、薪がまるで売れない日があると、姉の家にやるのも嫌だと思って、その薪を海に投げ込んで帰るのを常にしていた。

 そういうことが何度か続いたある日、いつものように薪を海に投げて帰ろうとすると、海の中から女が出てきて、いつも薪を下さってありがとう、御礼をしたいので竜宮に来てくださいと言う。案内に従って行くと、女は道々、「帰りに何かお土産を下さると言われたら、黒猫を望みなさい」と助言してくれた。

 竜宮では歓待され、何日か楽しく過ごした後、いざ帰ろうとするときに土産をやろうと言われたので、かねて教えられていた通りに「黒猫を下さい」と言うと、「この黒猫には毎日小豆を五合食べさせなければなりません」と言って渡してくれた。家に連れ帰って毎日五合の小豆を食べさせると、黒猫は毎日五合の黄金を糞したので、妹の家はたちまちにして大金持ちになった。

 日ごろは音信もない姉が、この話を聞いて黒猫を借りに来た。いやとは言えないので貸してやると、元来欲の深い姉は大喜びで、もっと沢山黄金を得ようと小豆を一升食べさせた。すると、黒猫は黄金を糞することもなく、食べすぎで死んだ。

 妹は悲しんで、黒猫の死骸を引き取って自分の屋敷の庭に丁寧に葬った。すると、そこに橙の木が生えてきた。黄金を生んだ猫の死骸から生えた木だからめでたいとして、それ以来、正月にはその実を飾るようになったという。



参考文献
『桃太郎の誕生』 柳田國男著 角川文庫 1951.

※以下、類話を幾つか並べてみる。

黄金小猫(母の猫)日本 沖縄県

 雷を大変怖がる母がいて、大きな雷鳴でショック死する。死後数日後に再び激しい雷鳴がなり、兄は無視するが、弟は母の墓に駆けつけて守をしようとする。すると棺の上に猫がいる。弟は母の化身だと思って猫を連れ帰り、毎日一緒に過ごす。

 ある朝、猫が黄金を生み、それから毎朝生むので弟は裕福になる。羨んだ兄が猫を借りるが、大便しかしないので殺して庭に捨てる。

 弟は猫の死骸を自分の家の庭に埋めて墓に木を植える。まもなく木は大きくなり、黄金色の実を沢山付ける。これがクガニー(こがね…黄金)と呼ばれる沖縄のみかんの始まりである。

 別説によれば、兄は親の祀りを怠り、弟は酒やお香を供えてねんごろに祀っている。ある日、弟がいつものように墓に行くと、不意に墓の中から一匹の白犬が飛び出してくる。家に連れ帰って毎日一合の飯を食わせると、毎日黄金の糞をするので金持ちになる。兄が羨んで犬を借りるが、弟の戒めを無視して飯を一升食わせると、犬は食いすぎで死ぬ。弟が犬の死骸を引き取って庭に葬ると、クガニーの木が生えて実を結ぶ。

 これにちなんで、正月七日には必ずこの実を先祖に供えるという。>>「兄弟と犬

応該有中国 江南 寧波地方

 亡父の財産分配の際、弟夫婦が兄夫婦をだまし、めぼしい財産を奪う。

 兄が海辺で石につまずき、側の一文銭を海に棄てると、海が割れて竜宮に達し、龍王から「応該有」なる猫程の大きさの小動物を土産にもらう。餌を与えると金塊になって出てくる。

 弟も竜宮へ出かけ、ねだって「不該有」なる小動物を得るが、ご馳走を食べさせても金塊を排さない。果てに死ぬ。それでも金塊を得ようと肚を裂くと、ひどい臭気が噴出する。弟は鼻をつまんで逃げ出す。

歌う猫中国 ミャオ族、ヤオ族など

 豊かな兄が弟を家から追い出す。弟は歌う猫を捕え、それを見世物にして豊かになる。羨んだ兄は猫を借りるが、猫が歌わないので殺して埋める。

 そこに生えた木の下で弟が泣いていると、木から金銀が落ちてくる。兄が真似ると汚物が降ったので木を切り倒す。

 弟が木から豚のエサ箱を作ると、豚が大きく育つ。兄がエサ箱を借りると豚が死んだので、エサ箱を燃やす。

 弟が燃え残りから櫛を作って髪を梳くと、髪が美しくなる。兄が借りると毛が抜けたので櫛を燃やす。

 弟が燃え残りで釣り針を作ると、魚が針を付けたまま逃げる。針を探していると泣いている娘に出会う。彼女の父が口に針を刺して苦しんでいるという。娘の案内で竜宮に行き、竜王の口に刺さった針を抜いて褒美をもらう。兄は真似をして失敗する。

竜宮の亀日本 長崎県 壱岐

 昔、貧乏な爺と婆がおり、その隣に金持ちの爺と婆が住んでいた。

 正月が近づいて隣では餅を搗き始めたが、こちらは貧乏で何も出来ない。音を聞くばかりなのも辛いので、夫婦で正月の飾柴を売りに町に出た。売り終わった帰り、海辺の岩の上に腰掛けて煙草を吸っていると、海の中から乙姫様が現れて、竜宮へ連れて行くから来い、と言う。

 二人が喜んで連れられて行くと、目が眩むような立派な御殿で何日もご馳走になった。帰る時に乙姫様が一匹の亀の子をくれたので、教えられたとおりに毎日小豆を五合食わせて戸棚に入れておくと、毎晩チリンチリンとお金を幾らでもひるのだった。

 隣の爺がこれを知って羨み、無理に借りていって小豆を一升食わせた。翌朝 戸棚を開けると、そこら中を糞だらけにしていたので、隣の夫婦は激怒して亀を殺した。

 貧乏な夫婦は大変に悲しんで、亀の死骸を庭先に埋めたところが、そこに一本の蜜柑の木が生えて沢山の実がなり、皮を剥くと中にはお金が一杯詰まっている。喜んで皮を全部剥いて、とうとう大変な大金持ちになったという。




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