「魂の無い巨人」の題でも知られる。魔物が自分の命(力)を遠く離れた場所の小さな卵の中に隠していて、そのために不死身なのだが、魔物の恋人または従者にさせられている人間がそれを聞きだして、卵を破壊して魔物を殺してしまう。
西欧全域、インド、アフリカ、アメリカ大陸など、世界中で見られる。魂や力を体の外に隠す、という信仰はかなり古いもののようで、卵の他に植物、鳥、髪の毛などに隠されている。例えば、古代エジプトの「二人の兄弟の話」でも、弟の魂はアカシアの花の上に隠されている。この、命を隠している不死身の英雄は、しかし多くの場合恋人の裏切りによって身を破滅させる。
昔、七人兄弟がいた。女手が無いのにうんざりして、嫁探しの旅に出た。七番目の弟だけは留守番をさせられたが、兄さんたちは「お前にも嫁さんを探してきてやるよ」と約束して出ていった。
途中の森で、小さな小屋にお爺さんが一人住んでいた。お爺さんは兄弟が嫁さん探しに行くと聞くと、「わしの嫁さんも連れてきてくれ」と言ったが、兄さんたちは返事をしなかった。冗談だと思ったもので。
それから、兄さんたちは七人姉妹の嫁さんを見つけて帰ってきた。途中、例の小屋の前に差し掛かると、あのお爺さんがいかにも待ちかねた様子で「頼んでおいた嫁さんは連れてきてくれたか」と言った。
「だめだね、爺さん。あんた向きの嫁さんは見つからなかったよ。俺たちはめいめいの嫁さんを見つけ、七人目はうちの弟の嫁さんにするんだ」
「その七人目をわしに譲ってくれてもいいじゃないか。約束したはずだ」
兄さんたちがなおも断ると、お爺さんは門口に立てかけてあった小さな白い杖で兄さんたちと六人の嫁さんに触れた。すると、みんなはそのまま石に変わってしまった。残った七番目の娘は、お爺さんの嫁さんになるほか無かった。
娘はかいがいしく働いて楽しそうにしていたが、心の中では不安でたまらなかった。そのうち爺さんは死ぬだろう。そうしたら、この森の中で一人ぼっちだ。それに、石にされたみんなを元に戻すにはどうしたらいいだろう。
娘が不安を打ち明けると、お爺さんは言った。
「そんな心配は無用だ。いいか、わしは死なない。なにしろわしの胸には心臓が無いのだ。万が一死ぬことがあっても、白い杖がある。白い杖であそこに置いてある十二の石を打てば、みんな元の人間に戻る。お前は一人ぼっちにはならないだろう」
「心臓が胸に無いですって。じゃあ、あなたの心臓はどこにあるの」
お爺さんは話したがりませんでしたが、娘があの手この手で食い下がりましたので、ついにそれを打ち明けました。
「やれやれ、お前を満足させてやろう。わしの心臓はベッドカバーの中にあるのさ」
次の日、お爺さんが森から帰ってくると、ベッドカバーが綺麗な羽根や花で飾り立てられていました。
「こりゃ一体どういうわけだ!」
「だってあなた、私は毎日一人であなたに何もしてあげられないんですもの。せめてあなたの心臓を喜ばせてあげたかったのよ」
お爺さんは思わず笑い出しました。
「あれはほんの冗談だよ。わしの心臓は全然別のところにあるさ」
すると娘は泣いて、「じゃあやっぱりあなたは死んで、私は独りぼっちになるかもしれない」と言ってはしつこく心臓のありかを訊くので、お爺さんは「部屋の戸にある」と答えました。娘は、今度は部屋の戸を羽根や花で飾り立てました。
「わしの心臓は部屋の戸どころか、とっくに別のところにあるよ」
「あなた、やっぱり胸に心臓があるんだし、死ぬかもしれないんでしょ。私を騙してばかりいて!」
「わしが死ぬわけが無い。だが、お前がなにがなんでもわしの心臓のありかを知りたいというならば、お前の気を静めるために言ってやるがね。
ここから遠く離れた、誰知らぬ寂しい地に、大きな教会がある。教会の周囲には堀があり、厚い鉄の扉で守られている。その教会の中に一羽の鳥がいて、それがわしの心臓なのだ。その鳥が死なない限りわしも死なない。鳥は勝手に死ぬことは無いし、誰の手も届かないだろう。さぁ、これで安心したかね?」
さて。その頃、留守番をしている七番目の弟は、兄さんたちがいつまでたっても帰ってこないので、何かあったに違いないと考え、兄さんたちを探す旅に出た。そして例の森の小屋に辿りつくと、お爺さんは留守で、その妻になっている娘が出てきた。
末の弟の話を聞くと、娘は、彼こそが本来自分の夫になる人だと気づいた。そして自分の素性を明かし、兄さんたちとその花嫁がどうなったかを話した。二人は出会えたことを喜び合い、お爺さんを殺す方法を相談しあった。
遠い教会の中にいるお爺さんの心臓の話を聞くと、末の弟は早速出かけることに決めた。その晩はベッドの下に隠れていて、翌朝、お爺さんが出かけてから、娘とねんごろに別れを惜しんで出発した。
途中、娘にもらった食べ物を食べるとき、思わず「誰かが一緒に食べないかな」とつぶやくと、赤い雄牛がやってきて口をきき、一緒に食事をとった。立ち去るとき、雄牛は「わしの助けがほしいときは、わしの名を呼ぶがいい」と言った。
次に食事をとったときは、大きなイノシシが現れた。若者にご馳走になると、やっぱり「助けがほしいときは呼べ」と言って去っていった。
三度目に食事をとったときには、一羽のグライフ鳥が舞い降りてきた。そしてやっぱり、「助けのいるときは呼んでくれ」と言って飛んでいった。
鳥と別れてまもなく、末の弟は教会に辿りついた。しかし、深い堀があって渡れない。そこで、末の弟は赤い雄牛を呼んだ。現れた赤い雄牛は、ぐんぐんと堀の水を飲み干してしまった。末の弟は水底に現れた青い道を通って、無事に堀を越えることができた。けれど、鉄の扉は重く頑丈で開けることができない。末の弟は今度はイノシシを呼んだ。イノシシは壁に突進して、壁に穴を開けてくれた。
若者はついに教会の中に入った。なるほど、確かに鳥が会堂の中を飛び回っていて、とても捕まえられそうにない。末の弟はグライフ鳥を呼んだ。グライフ鳥は心臓の鳥を追い回し、わしづかみにすると、末の弟に渡して去っていった。
末の弟は小鳥を籠に入れて、森の中の小屋に帰ってきた。娘は大喜びして、「あの人に気づかれると大変だから、まずはベッドの下に隠れてね」と言った。
末の弟がベッドの下に隠れると、お爺さんが森から帰ってきた。お爺さんは気分が悪いと苦しがっていた。娘は泣いて言った。
「まぁ、あなた、やっぱり死ぬのね。あなたの心臓はやっぱり胸の中にあったんじゃないの」
「いい子だから静かにしておくれ。いや、死ぬわけが無いのだ。きっとすぐおさまるから」
けれど、その時、末の弟が小鳥を締め上げ、息の根を止めた。お爺さんは悶絶して椅子から転げ落ち、そのまま死んでしまった。
娘は末の弟をベッドの下から引っ張り出した。それから、白い杖で十二の石を一つずつ叩いた。すると、みるみるうちに石になった兄さんたちと姉さんたちが元の姿に戻った。娘は言った。
「それじゃ、みんなで家に帰りましょう。もう爺さんは死んだんですもの。後は何一つ怖いものなしよ」
そして、七人の婿と七人の花嫁は仲良く手をとって家に帰り、同じ日に結婚式を挙げて、末永く幸せに暮らした。
参考文献
『世界むかし話(全十七巻)』 ほるぷ出版
※「心臓の無い巨人」のタイトルでも知られる話。よく知られている話型としては、以下のようなものもある。
ある王国に数人兄弟の王子がいて、末の弟を残して嫁取りの旅に出る。途中、巨人に嫁ともども石にされて帰ってこない。王は嘆き、末の弟が旅立つ。途中で三種の動物を助け、後の助力が約束される。やがて巨人の家に着く。巨人に囚われた美しい娘がいて、王子をベッドの下に隠し、巨人から弱点を聞き出す。巨人の心臓は遥か離れた地の小鳥の巣の中に卵として隠されている。王子は旅立ち、動物たちの助力によって卵を手に入れる。そして卵を握って巨人を苦しめながら兄王子たちを元に戻す方法を問いただす。巨人が教えると、卵を握りつぶして殺す。兄王子たちを元に戻して、美しい娘を連れて帰還する。
バリエーションによっては、嫁取りのモチーフがすっぽり抜け落ちている。
兄王子たちは悪しき巨人を退治するために出かけるが、石にされて帰らない。末王子は召使として巨人の家に入り込み、忠実に仕えて巨人の信頼を得る。そして巨人の心臓のありかを聞き出し、かつて助けた動物たちの助力を得て、それを手にいれる。王子は裏切られた衝撃におののく巨人を殺し、兄王子たちをよみがえらせる。
巨人の妻にしても召使になった王子にしても、巨人の信頼を得ておいてからそれを裏切るのだ。(「不実な妻」のモチーフ)
どこか悲しく、寂しい話のように思える。
三種の動物の助力は、「桃太郎」を思わせる。
参考--> 「二人の兄弟の話」
リング王と妃の間にリニ王子があり、幼少時から力が強くて騎士になることを期待されていた。一方、城の近くの小屋に貧しい百姓夫婦があり、一人娘をシグニといった。
森に狩りに出たリニ王子は霧で家来とはぐれ、行方不明になる。三日間探したが見つからず、王は心配のあまり病床に就く。王子を連れ帰った者には国半分を与えるとお触れが出される。
シグニは両親にお弁当と新しい靴をもらって出発し、数日後大きな岩穴の前に着く。中には銀の刺繍の蒲団をかけたベッドと金の刺繍の蒲団のベッドがあり、金の方には王子が寝ていた。ゆすぶっても起きない。見ると、ベッドの足にルーネ文字(魔力を持つとされる北欧の古代文字、ルーンのこと)が刻まれている。入り口の戸に隠れて様子を伺っていると、凄い足音をたてて驚くほどの大女が二人入ってきた。
「おや、なんだか人間の匂いがするぞ」「いや、これはあの王子の匂いですよ」
王子のベッドに近づいて白鳥に命じて歌わせると、王子は目を覚ます。若いほうが「何か食べませんか?」ときくが王子は断わる。
「私をお嫁にする気はないかえ?」
王子が断わると、女は再び白鳥に命じて王子を眠らせ、女達は銀の刺繍のベッドで眠ってしまった。
朝、再び同じことが繰り返され、女達は出ていった。
シグニは女達がやっていたのを真似て、白鳥に命じて王子を目覚めさせた。
「私の白鳥や、歌を歌って、リニ王子を起こしなさい」
目覚めた王子とシグニは顔を見合わせて笑う。
「何か変わったニュースはなかった?」
シグニは、自分の来たわけや王様の様子を伝え、何故こんなところに連れてこられたのかと尋ねる。王子は答える。家来とはぐれるや否や、巨人の女二人が自分を引っ張ってここに連れてきたのだと。そして無理に結婚を迫られているが、断わり続けているのだと。シグニは、今度結婚を迫られたら、ベッドに何と書いてあるのか、昼間女達は何をしているのか、「教えてくれたら結婚してもいい」と言うのよ、と指示する。二人は夕方まで将棋をして遊び、再び王子を眠らせて隠れた。
帰ってきた巨人の女達に起こされると、王子は食事をとり、シグニに言われた通りの条件を出した。ベッドには
走れよ、走れ、私のベッド、
私が望むところへ走っておいで。
と書いてあり、女達は昼間森で狩りをし、時折一本のカシの木の下で、自分たちの命の卵で玉投げをして遊ぶのだと言う。その卵を割られたら死んでしまわなければならないのだと。
王子は眠らせてくれと要求し、翌朝、女が「一緒に森へ行きませんか」と誘うのを断わって家に残った。女達が出かけると、シグニは王子を起こし、王子に「女達が玉投げを始めたらそれめがけて槍を投げなさい」と指示してベッドの呪文を唱えた。
走れよ、走れ、私のベッド、
森の中まで、走っておいで。
途端にベッドは走ってカシの木の上に止まり、王子は金色の卵に槍を投げつけて壊し、女達は口から命のよだれをたらして死んだ。
二人は岩穴に戻って二台のベッドに宝物を積み、シグニの家に帰った。そして翌朝、王様に報告し、領地の半分をもらい、王子と結婚して幸せに暮らした。
参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社
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